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第３話 （作：ｋ．ｍ） 「神我封滅・・・・」 俺の呟きとともに手にした御架月に金色の灯（ひ）が燈る。 幾度唱えたかもわからぬほど使い慣れた祝詞（のりと）とともに 俺の身体から溢れ出した霊気の焔（ほむら）が御架月へと流し込まれていく。 「神咲無尽流 真洸斬」 霊剣が払った軌跡を寸分たがわずなぞる様に金色の波動は刃と化して群がる霊団をなぎ払った。 オオオオオオオッ 悲しみと苦痛の声を挙げて消えていく霊達。 それを苦い思いで聴きながら・・・・それでも俺はこの刃を振るってきた。 俺が使う無尽流は薫たちの一灯流や真鳴流、楓月流とはその成り立ちからしてまるで違う。 多少の差異はあれど他の三流派は人を霊や妖（あやかし）の脅威から守るために創られ、 時としてはそれらを救うためにこれまで受け継がれてきた。 だが、無尽流の理（ことわり）に何かを救うと言う概念はない。 目指す道ははただ一つ、斬魔妖殺・・・・・魔を屠り妖（あやかし）を滅っする。 そもそも、未だ神咲が三流に分かれる前の時代。 当時の当代が恋人を妖（あやかし）に殺され復讐のために 神咲の家に封印されていた御架月を奪い創設した流派だと言うのだ。 霊に対する気遣いはおろか、使い手に対する気配りさえないただ威力のみを求めた荒々しい霊技の数々。 肉体への反動など一灯流の奥義 封神 楓華疾光断にすら倍する霊術がいくつもある。 斬妖の、そして遣い手殺しの剣技として怖れられ、やがて後継を失い歴史の闇に消えていった退魔流派。 それでも、俺はこの道を選んだ。 邪道にして邪法、しかし紛れもなく退魔術としては最強 霊剣 御架月とともに発見されたソレ。 妖弧 久遠の問題を抱えていた当時の神咲にはそのまま封じることが出来ない貴重な戦力であったから。 ならば・・・・・ 薫や葉弓さん、楓ちゃんのような優しいあの娘たちにこの残酷な剣技を振るわせる位なら・・・・ 異なる時の旅路 第三話 「・・・・・・・・ここは」 懐かしい過去・・・・いや、ここでは未来か そんな夢から覚めた俺は見知らぬ天井を見上げる。 覚醒間際のはっきりとしない頭で気を失う前のことを思い出す。 （おれは、確か美沙斗さんと会ってソレで・・・・） 「大丈夫ですか？」 掛けられた声に反応し慌てて起き上がる。 「ぐっ・・・・・」 「ああ〜急に起き上がっちゃダメですよ〜」 右手に疾しる激痛に腕を押さえる俺にやや間延びした声が掛けられる。 どこかで聞いた声にそちらを見ると俺よりも随分と年下の少女が俺の傍らに座り込み心配そうにこちらを見ていた。 なんだ？どこかでこの少女に会った気が・・・・ 「えっと、すまない。俺は一体・・・・」 頭の片隅に引っかかる疑問、自分が置かれている現状。 その二つを秤（はかり）に掛けて、結局俺は自分が置かれている現状を先に知ることにした。 「はい、美沙斗さんが怪我をされた貴方をここにお連れしたんですよ」 ニコニコと無邪気な笑みを浮かべ少女が非常に端的に、だが年齢不相応な程丁寧に状況を説明してくれる。 しかし・・・・ （美沙斗さんが？） 俺が気を失う直前まで敵対・・・・と言うか殺し合い（まあ、俺にしてみれば美沙斗さんを殺すなんてとんでもない話だが）していた相手である。 正直俺が気を失った時点で目を覚ませばあの世とは行かないまでも拷問部屋くらいは覚悟してたんだが・・・・ 「あ、あの喉渇いてませんか？何か飲み物持ってきますね」 なにやら考え込んでしまった俺をよそに、その少女はあたふたと立ち上がり・・・・ 「きゃうっ」 何もないところでつまづいた。 はい？？ 大きくバランスを崩して、頭から床にダイブする少女に、俺は慌てて手を伸ばす。 ドッターーーン！！ だが、もともと床で横になっていた俺はその少女を支えることすら叶わずに一緒になって転倒した. 「あややや・・・・すいません」 その少女は恥ずかしげに身を起こして頬を染める。 幸い、俺がクッションになったせいで大した怪我も痛みもなかったようだ。 その幼いとは言え整った顔立ちを恥ずかしげに紅く染める様は。たいそう見所があったのだろうが・・・・ 負傷した右腕を強打して悶絶しながら、痙攣している俺には残念ながら関係のない話だった。 「はわわわ、す、すいません。すいません」 「あ、あははは。き、気にしなくていいよ」 
ぺこぺことコメツキばったのように、頭を下げる少女に俺は必死にポーカフェースを保ちながら手を振る。 もともと負傷してた腕が、いやな感じに変色してピクピクと痙攣してたのでどれだけ誤魔化せたか謎だけれども・・・・ 「そ、そういえばさ・・・・」 「目が・・・・・覚めた様だね」 しばらくして、兼ねてよりの疑問を口に出そうと声を上げた俺をさえぎるようにこの部屋の入り口・・・・ 恐らくは庭に面した障子の向こうから静かな声が響く。 「あ、美沙斗さん」 にこやかに笑い返事する少女と違って、俺は背中に一筋の冷たい汗をかいていた。 （い、いつのまに・・・・） 気配がなかったのはもとより、美沙斗さんは先ほど言ったとおり庭に面した障子の向こうに立っている。 初春の日差し差し込む庭に面する障子である。 いかに気配を消そうとも障子に映る影を消すことは出来ない。 それでもなお、俺にさえその存在を感じさせなかったのはさすがは御神流と言うべきか・・・・さすがは美沙斗さんと言うべきか・・・・ 「お茶持ってきますね〜」 そう言って軽やかに廊下を駆けていく少女の遠ざかる足音を聞きながら あ、どっかでコケた・・・・ ま、まあ俺は針のムシロに座らされる気分で美沙斗さんと向き合っていた。 「怪我は・・・・・どうだい？」 だが、物静かで、無愛想で・・・・気遣いの感じられる優しい声に俺は顔を上げる。 そこには人喰い鴉と呼ばれ、裏の世界を震撼させた御神の暗殺者ではなく。 無表情で不器用で、だけど心配そうにこちらを見る一人の女性しかいなかった。 どういう経緯か解らないが俺が龍（ロン）の手のものだという誤解は解けたようだ。 「あ、あはは。だ、大丈夫ですよ。俺が勝手に自爆したみたいなものですし」 目の前でひらひらと無事なほうの手を振りながら誤魔化すように笑う。 この言葉に嘘はない。 昔の感覚で霊技を使い、自滅したのは紛れもなく俺のせいだ。 まだ、一灯流の楓陣刃や楓月流の洸雷尖のような肉体に負担のない技なら 少なくとも意識を失うなどと言うことはなかったはずだ。 まあ、非物理対象・・・霊障を目的に磨かれたこれらの技が肉体を持った相手にどこまで有効か不明だが・・・ 「そうか・・・・？その腕、随分と痛めているようだが・・・・」 だが、やはりと言うか先ほどの少女と違い、俺の不調などお見通しらしく痛めた右腕に目を落とす。 「いや、まあさすがに痛いですけど・・・・そうだ何か紙はありますか？」 先ほどから盛んに激痛を送り込んでくる腕に少々困っていたのは事実。 「紙・・・・・？懐紙でいいならあるが？」 本来、刀についた血糊を払うための紙 時代劇などでよく見かけるがそんなもの持ち歩いているんですか？美沙斗さん（汗 もらった紙を適当な大きさに切りそろえた後、指先に小さな切り口を入れる。 本来、霊符は樹齢数百年を越える御神木を焼き上げた墨を霊水で砥いだ特殊な墨汁を使うんだが贅沢も言ってられない。 自身の血で書き上げた応急的な癒しの霊符を右腕に張り、痛みを抑え治癒力を活性化させる。 あとは定期的に気でも流し込んでやれば二，三日もすれば元通りになるだろう。 「神咲の霊術と言うわけかい？」 「・・・・・知っているんですか？」 たしかにあの時俺は洸桜刃を撃つ段階で神咲の名を口にしたが・・・・ 御神流・・・・それも世界の闇を渡り歩いてきた美沙斗さんと神咲の接点を不思議に想い尋ねる。 「裏の事情にはいろいろと詳しくないと長生きできない世界にいるんでね」 美沙斗さんは自嘲の笑みを浮かべる。 「退魔流派 神咲の事は良く知っている。アレが龍（ロン）の手先になるなど考えにくいし、君の身体のどこにも龍（ロン）の構成員の証である刺青はなかったしね。」 それでか俺にかけられた疑いが晴れたのは、しかもどうやら身体のあちこちを見られたらしい orz ・・・・待てよ？ 「もしかして、見てたんですか？」 いやにいいタイミングで割り込んできた先ほどのやり取りを想い浮かべる。 美沙斗さんは自嘲の笑みを崩し、代わりにどこか人の悪い笑みを浮かべる。 「龍（ロン）の手の者ではないようだが、得体の知れない男と那美ちゃん・・・・知り合いの娘を二人きりにする度胸はないんでね」 いや、得体の知れない男って 「だったら最初から・・・・・まさか試したんですか？」 「鋭いね。まあそう言う事だよ」 あそこまで見事に気配を消されてたら、最初から見られてたとしても気づきはしなかっただろう。 って事は、あの情けない俺の姿を見て立って事か？？ ぐああああ、こっ恥ずかしい姿を・・・・・。 それにしても、美沙斗さんって実は結構お茶目な人? 羞恥のあまりあらぬ方向を向いて頭を抱える俺に美沙斗さんの視線は急に強まった。 「ただし、君に対する疑惑が完全に晴れたわけではないんだ・・・・」 ザワリッ 再び、消え去っていたはずの殺気が美沙斗さんの身体からあふれ出す。 こ、こわっ 「封印のはずれた霊障が世間を騒がしている時分だ。退魔士の君がここに居てもおかしくはない。だが、何故私の名を知っている？」 「い、いや、それは・・・・・って封印の外れた霊障！！？？」 なにやらとてつもなく聞き捨てならない単語を聞いて俺は美沙斗さんに詰め寄る。 「知らないのかい？一月前にこの近くで封印が解かれたらしいが全国の主な神社仏閣を破壊して回っているそうだ」 じ、神社仏閣を破壊だって！？ 「ま、まさか・・・・・」 一気に顔が青ざめていく。 「霊障の封印を解いた組織を追っていてね。手がかりが残ってないかこの地に来たんだが・・・・」 続けて美沙斗さんが驚愕の事実を言っているのだがそのときの俺はその話の半分も聞こえていなかった。 まさか、この時代なのか？ 薫に聞いた覚えがある、薫が十六夜を受け継ぎ、神咲一灯流の当代を襲名するきっかけになった事件。 日本史上でも有数の霊的災害（デビルハザード） そして・・・・・・ ドクンッ 大気が鳴動した。 「くっ・・・・・」 「な、なに！？」 霊に関しては一般人と変わらないはずの美沙斗さんにさえ感じるらしい。 圧倒的な妖気、そして人では決して持ち得ない量と濃度の殺気と憎悪が大気を包み込んでいく。 こ、これは・・・・・まさか！！？？ 「み、美沙斗さん。ここはもしかして？」 「あ、ああ・・・・神社だが。・・・・まさかここに来たと言うのか？」 間違いない。 これほどの妖気を放つ霊障など俺の退魔人生で数百と払ってきた妖（あやかし）の中にもいない。 く・・・・・今の俺に「あの子」をを払う力なんて・・・・待てよ？ 俺の脳裏に先ほど何気なく聞き流した美沙斗さんとの会話の中の一つの単語が浮かび上がる。 ま、まさか・・・・・？ 「み、美沙斗さん、さっきの女の子の名前なんて言いました？」 「こ、こんな時に何を・・・・」 「いいから！！」 ほとんど蒼白と化した俺の顔とその気迫に押され美沙斗さんはしぶしぶと応える。 「那美ちゃんの事かい？」 すべての符号が俺の頭の中で一致した。 ガガガガガガガガガガガガガッ！！！ そして、その瞬間 天を揺るがし、地を震わせ、すさまじいまでの閃光と轟音が俺の周囲を覆い尽くした。 ＜続く＞ 後書き ３話を書き上げました。 事態が急展開過ぎてついていけない方申し訳ない。 本当は、もう一、二話を間に挟んでも良かったのですが俺の技量でソレをやるとだらけた話にしかならないので 一気に話を進めさせてもらいました。 ちなみに那美の年齢がおかしいんじゃないかと感じた方、素晴らしい。 ええ実は２と３の年齢差は作者都合により少し縮めています。理由は秘密でｗ この物語は、通常通りにとらハ１〜３の時間が流れて生きますが その中に今回なら美沙斗や耕介といったイレギュラーが混ざりこみます。 そのイレギュラーたちがどう物語を変えていくのか？ すこしでも楽しんでいただければ幸いです。 あと、無尽流の設定は勝手にいじってあります。 くわしい情報を知らないので、それを不快に感じる方は申し訳ありません。 ▼next ▲prev |