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プロローグ （作：響） 「ホントにええんやな？」 「うん、いいよ」 「なんでまた、お前さんはそうまでする？」 「当然でしょ？」 「ふむ？」 「だって、私はあの子のお姉ちゃんなんだから」 「……ＯＫ、契約をしよか」 雲一つない蒼空に響き渡る鐘の音。 雨天が多いこの時期に敢えて野外での結婚式を選んだ二人を、天が祝福しているかのような快晴。 「汝、その健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛しこれを敬いこれを慰めこれを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」 「誓います」 静寂に包まれたその場に、小さくもはっきりと響き渡る誓いの声。 「それでは、誓いの口づけを」 新郎が新婦を抱きしめ、二人はゆっくりとキスを交わす。 それを合図に、静寂に包まれていたそこに、盛大な拍手が響き渡った。 キスを終えた二人は、振りかえると真紅のカーペットをゆっくりと歩いて行く。 参列者の数は、二人の人望に比べて多くは無い。 『本当に親しい人のみでやりたい』 そう言う願いを聞き入れた結果、参列者の数は十五名程度となっていた。 そして、カーペットの端まで来ると、新郎新婦が参列者の方へと振り返る。 「はい、それじゃあ行くよ！」 新婦の故郷での恒例行事。 手にしたブーケを高々と掲げると、勢いよく蒼空へと放り投げた。 
リリカルなのはＸとらいあんぐるハート３ Ｂａｒ Ｂｅｔｒａｙｅｒｓ 『想いと力と運命と』 ―プロローグ― 「ただいま……」 玄関を開けたフェイトは、習慣からつい挨拶をするが、静まり返った室内には誰もいない。 その事が彼女をさらに悲しくさせる。 数年前には二人の『子供』が同居していたのだが、今では彼らも独立してしまっていた。 彼女が手にした荷物からは、小さめの花束が顔をのぞかせている。 本来であれば幸福を招くはずの花束が、彼女の疲労を増やす事になっていると言うのは、皮肉と言えば皮肉である。 『ブーケトス』 新婦が手にしたブーケを投げ、受け取る事が出来た者が次に結婚をするという迷信の中の迷信。 だが、今のフェイトにはそれすら重く感じられた。 「綺麗だったなぁ……」 リビングに入り中央に置かれたガラステーブルに荷物を起くと、そのまま横にあるリクライニングチェアーに寝転がる。 一瞬だけドレスの事が気になったフェイトだが、結局はどうでもいいと思い直す程に疲れていた。 純白のウェディングドレスを着たなのは。 その眩い笑顔を思い浮かべると、思わずため息が出た。 「それに比べて……」 しみじみと自分の境遇を思い返すフェイト。 既に夕刻を過ぎ、暗くなってきた部屋に一人ポツンとしている自分。 執務官という仕事に不満は無いが、さすがに寂しさを感じてしまう。 一体全体何が悪かったのか。 何度か交際を申し込まれたものの、何か違うと断ったり、仕事が忙しく有耶無耶になってしまったり。 気がつけば一人取り残されてしまっていた。 「おっかしいなぁ……」 僅かに開られているカーテンの隙間からは、二十四時間消える事のない街の明かりが見えてくる。 部屋の明かりを消すと一層幻想的な景色となるが、同時にそれは孤独感を深める事にもつながる。 しばらくの間じっと見ていたフェイトだったが、それが胸のモヤモヤを無くしてくれる訳もなく、時計に目をやれば帰宅からすでに三十分ほど経ってしまっていた。 とりあえずは服を着替えようかと立ち上った時だった。 ドスン！ 「え？！」 隣の寝室として使っている部屋から、何か重い物が落ちた音が響いてきた。 その音に対してフェイトは慌てて起き上がると、バルディッシュを手にドアの前へ駆け寄る。 何かが飛び出てくると言う彼女の予想に反して、いくら待てども部屋からはあれ以降音がしてこない。 こちらが入るのを待っていると言うのは、音を立てている時点で除外される。 しばらくして動きが無い事に痺れを切らしたフェイトは、大きく深呼吸をして覚悟を決めるとそっとドアを開けた。 「……え？」 意を決してドアを開けた先の光景に、フェイトは思わず間抜けな声を上げてしまう。 なぜならそこには…… 「うにゅ〜、フェイトぉ〜、だめだよぉ〜、えへへへへ」 布団に突っ伏しながら一升瓶を抱きしめて寝言を呟く、完全に酔っぱらったあの少女の姿があったのだから。 「お〜い」 「ムニャムニャ……」 起こそうとしているのか、起こさないように注意しているのか微妙なラインの大きさの声で呼びかけながら頬をつつくも、少女からは一切反応なし。 とりあえず酒瓶を取り上げて楽な格好にさせたフェイトは、先ほどまで座っていたリクライニングチェアーに戻ると毛布を準備して少女を抱きしめる。 傍から見たらラッコのような状態になりながら、フェイトは腕の中で眠る少女をまじまじと見つめる。 「まったく…… 幸せそうに寝ちゃって」 突然の出来事に当初は慌てた物の、しばらくして落ち着いたフェイトは一つの結論を下してた。 『これは夢』 身も蓋もない結論ではあるが、彼女からすればいきなりこの人物が部屋に出現するなんて、それ以外にあり得ない事なのだから、当然の結論とも言えた。 「ねぇさん」 「ん〜……」 そう、今フェイトの中に居るのは、アリシアその人だった。 もう一度頬をつつくと、くすぐったいのかもぞもぞと動き毛布の中に逃げ込むように丸まる。 あまりの可愛さに、『もう一度』と言う思いと、『起こしたら可哀そう』という理性がフェイトの頭の中でせめぎ合う。 いつまでも決着のつかない闘いのとりあえずの妥協案として、少しだけ抱きしめる力を強くする事にしたフェイト。 夢のはずなのに、その感触は暖かく、だからこそ……今の現状に気が滅入る。 温もりを確かめながら、フェイトはゆっくりと過去に思いを馳せる。 困っている人の力になりたい。 その想いだけでここまで来たと言っても過言ではない。 お礼の言葉と笑顔の代償が、この孤独。 得る物は大きくても、満たされない心の寂しさ。 前々から薄々と感じていた事が、なのはの結婚式を見てはっきりと感じられてしまった。 「はぁ…… どうしてこうなっちゃったのかな……」 重い溜息を一つ。 「ん……」 「ぁ……」 フェイトはアリシアの声に我に返ると、気がつかない間に力を込めすぎたのか彼女が目を覚ましていた。 「ごめん、起しちゃった？」 「……フェイト？」 寝むたげな様子のアリシアの頭を、フェイトがそっとなでる。 「ん……」 目を閉じてされるがままのアリシアは、傍から見ればまるで猫のように見える。 「久しぶりだね」 「わたしからすれば、ほんの昨日の事みたいだけどね」 クスクスと笑いながら、アリシアがフェイトの胸に頬ずり。 「大きくなったねぇ」 「あれからずいぶん経っちゃったしね。でも、うれしいよ」 「うん、私も」 と、急にアリシアは動きを止めると、そのままフェイトの胸に顔を伏せ震えはじめる。 「だ、大丈夫？」 「う、うん」 フェイトの問いかけに返って来たのは、まったく大丈夫ではない弱弱しい声。 「どうしたの？！」 慌てて姉さんの肩を掴むと、顔を上げさせたフェイトが見た物。 「だ、ダメ……かも」 それは、青褪め涙目になったアリシアだった。 慌てる彼女に対して、アリシアの一言。 「ゆ、揺らさないで……」 「姉さん？！」 「……ぎぼぢわるい」 「はぁ……疲れた」 「ぅぅぅぅ、ごめん」 室内でソニックフォームを展開するなどという、冗談としか言いようのない暴挙で間一髪お手洗いへと放り込んだフェイト。 現状はドア越しに話をしていたりする。 「そもそも、なんでお酒なんて……」 「だ、だって……」 「姉さんに年齢は関係ないのかもしれないけど、駄目じゃない？」 「だ、だって…… あんまりにもうれしい事があったんだもん」 そう言う姉さんの声は、本当にうれしそう。 フェイトには、ドア越しにもそう感じられた。 「何があったの？」 「言っちゃダメなんだって」 その言葉と同時に、ドアを開けてアリシアが出て来た。 もっとも、やや足元がふらついているのはお約束と言うべきか…… 「大丈夫？」 「うん、多少はすっきりした」 そう言うアリシアの顔はまだどことなく青褪めている。 まぁ、あの体格で一升瓶を丸々飲んだのだから無理もない。 そんなことを思いつつ、フェイトはアリシアをソファーに座らせて冷蔵庫へ向かうと、ミネラルウォーターのペットボトルとグラスを取り出して渡す。 「ふぁ〜〜〜〜。生き返る」 渡されたペットボトルから直接飲みながらそんな事を呟くアリシアに、フェイトはどこかおやじ臭いと思うが口にしない。 「それよりも、言っちゃダメってのは？」 フェイトの問いかけに、アリシアは再度水を飲むと半分ほどに減ったペットボトルをテーブルに置いて口を開く。 「禁則事項」 「それじゃわかんないって」 「それでいいの」 「まったく……」 身も蓋もないアリシアの回答に、追及を諦めたフェイト。 互いにクスクスと笑いながらソファーに腰かけ照明を消すと、室内を照らすのは窓から入ってくる街の明かりのみに戻る。 「フェイト」 「うん？」 ソファーの端に座ったアリシアが、自分の太ももを軽く叩く。 「今度は私の番だよ。 偶には、姉さんらしい事をさせて？」 「……うん」 そっと乗せたねぇさんの太ももは細いけど柔らかく、何よりも暖かかった。 「ねぇ、フェイト。 これは私からのアドバイスというか、お節介なんだけど……」 アリシアの手が、ゆっくりとフェイトの頭を撫でる。 その手からは小さいけど、その手からは大きなやさしさがフェイトには感じられた。 「フェイトはさ、もっと、自分の幸せを大事にしても良いと思うよ？」 「自分の幸せ、ね」 「うん、隣に居てくれる人は大事だよ？」 見上げたアリシアの顔は、フェイトには少しだけ悲しそうに見える。 「私が言うのも、ちょっと違うんだけどね」 「ううん、姉さんはいつでもこうして見ててくれるから」 「ありがとう、私はいつでも一緒だよ。 でもね、フェイトに必要なのは、信頼できて一緒に進んでくれる男の人なんだよ」 「なんか実感ないな〜」 「まったく」 苦笑するアリシアを見て、同じように苦笑する。 「でもね、きっともうじき現れると思うよ。 フェイトが一生懸命になれる人」 「どんな人？」 「秘密」 「秘密が多いね」 「だって、最初から分かってたら面白くないでしょ？」 そういうアリシアの表情は、悪戯を思いついた子供そのもの。 それがフェイトにはうれしく感じる。 もっと話して居たいと思う彼女に、眠気が襲ってくる。 眠気を飛ばす為に体を動かそうとしても、まったく自由にならない。 タイムリミットって事なのかな…… そう悟ったフェイトは、眠気に抗うようにして一つの問いかけをする。 「ねぇ、姉さん」 「なに？」 「また、姉さんに会える？」 「うん、会えるよ」 「そっか」 「おやすみ、フェイト」 「おやすみ」 期待通りの応えに安心したのか、視界が暗闇に閉ざされる。 フェイトが最後に感じたのは、頬への柔らかい感触だった。 「ん……」 カーテンの隙間から指す太陽に、フェイトはしぶしぶ目を開けると、ゆっくりと周囲を見回す。 居る場所はソファーの上。 当然の様に、姉さんは居ない。 「夢、だよね」 自分が見た夢に、思わず苦笑しながら自己分析を始めるフェイト。 よほど人の暖かさに飢えているらしい。 よりによって、数年前に一度会ったきりの姉さんが出てくるくらいに。 でも、嫌な感じはまったくしない。 素敵な男性が現れるとか、自分の願望むき出しな夢ってのがちょっと笑えるけど。 フェイトは暗くなりかけた自己分析を振り払うかのように頭を振って立ち上がると、とりあえずシャワーを浴びようと上着を脱ぎはじめる。 「……うそ」 テーブルの上に置かれた物を見たフェイトが、茫然と立ち尽くす。 なぜなら、絶対にあってはいけない物が、そこにあったから。 夢の筈。 夢でなくてはいけないはず。 でも、あれが夢ではなかった事の何よりの証明が、そこにはあった。 テーブルの上。 そこにあったのは…… 『フェイトへ いつでも見守ってるよ 素敵な恋を見つけてね アリシアより』 そう書かれたメモと、黒いリボンを巻かれた『美少年』と言うロゴの貼られた一升瓶。 それは、夢の中でアリシアが手にしていたものと同じ瓶であり同じリボンだった。 ―あとがき― 皆様こんばんわ。 とりあえず始めてみました。 これからフェイトはどうなっていくのか、お楽しみに。 なお、このＳＳではお酒の話が出ます。 主にカクテルが。 ただし出てくるカクテルの由来は私が聞いたり調べたりした物です。 よって、間違えたり勘違いだったりする場合もございますので、ご了承下さいませ。 それでは、筆を置くまでお付き合いくださいませ。 それではまた。 響 ▼next ▲prev |