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謹賀新年、新しい年の始まりは晴天に恵まれ、ゆっくりと日の出が昇ろうとしていた。 シャッ！！ 勢いよくホテルのカーテンを開け放つと、葉弓は男物のワイシャツ一枚ｉに、下着姿と言う恰好で、大きく躯を伸ばした。 「ん―――、初日の出だぁ〜」 葉弓は暖房が効きはじめたばかりの室内で、嬉しそうに呟いた後、ブルッと躯を振るわせた。 「まだ動き出したばかりだから、仕方ないけど…………やっぱり冬は寒いなぁ〜」 葉弓は一人呟くと、朝日に背を向けて、ベット側にある大きな旅行鞄に近寄り、それを大きく開けた。其処には鮮やかな翠色の着物と、帯などが納められており、それらを見て葉弓は、クスリと微笑んだ。 「さあってと時間がないから、パパッとやるぞー」 葉弓はボタンを外すのさえ、時間が勿体ないと言った風に、ワイシャツの裾を持つと、一気に脱ぎ脱ぎ捨て、その白い素肌をまだ冷たい室内に晒した。 「まずはシャワーっと♪」 葉弓は無造作に、ベットにワイシャツを放り投げると、シャワー室へ向かった。朝の清めというか、此からのことに備えて、特に念入りに洗うつもりで。 『♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜』 葉弓の嬉しげな声と共にシャワーの水滴の音が暫し、その部屋を満たしていた。暫くしてガウンを着た葉弓は、朝食をルームサービスで済ました後、一気に動き出した。上下ともこの日の為に買っておいた、取っておきのショーツとブラを身につけ、髪を簡単に結うと着物の着付けを、姿見で確認しながら進めていった。この日の為に母親や祖母から何度も教えて貰い、一人で着付けが出来るように準備していた。それが今、やっと報われようとしていた。 「ん、良いかな？」 姿見には、翠色の着物に散りばめられた、金色の刺繍と緋色の帯が綺麗に決まっていた。 「後はお化粧かな」 葉弓は祖母に教えられた事を思い出しながら化粧をしていった。 『葉弓や、お前は色白だから下手な事はせんでええ。下地を軽く整えたら、唇に薄く紅を塗るだけにしておくこと。それだけで葉弓はもっとべっぴんさんになれるとね』 葉弓は言われたとおり、薄く下地を塗る程度にとどめて、簡単な微調整をした後、薄く淡い朱をそっと指で小さく引いた。 「ふぅ」 葉弓は自分の顔をそっと鏡で見つめた。其処にはいつもの葉弓じゃない、少し大人びた、いや立派な恋する女性の顔があった。 葉弓は小さく微笑みながら、姿見の前で回ると、着物の袖が花のように揺れた。 「さあ、此で恭也君と初詣行くぞーーー」 葉弓は大きく頷いていた。 数時間後、着物姿の葉弓の顔は少し引きつっていた。 「あ、あははは………」 高町家に直接訪問した葉弓の目前には、有る意味異様な光景が、出来上がっていた為だった。 「あ、葉弓さーん、お久し振りーーー」 「葉弓さん、あけましておめでとう御座います」 「おめでとう御座います」 「おめでとう御座います。今年もよろしくお願いしますね」 「Ｈｉ、葉弓」 其処には知佳や那美をはじめ、リスティやフィリスに美由希までもが着物を着て、高町家にて葉弓を出迎えていた。無論、知佳やフィリス達の真ん中には、やや憮然とした恭也は静かに立っていた。 「う、ぅぅん………おめでとう御座います、葉弓さん」 「あはは………お、おめでとう、恭也君」 葉弓には恭也にそれだけ答えるが精一杯だった。 「さあっ、みんな揃ったし、初詣に行こうっ」 『『『賛成ーーー』』』 知佳のかけ声に、皆が合わせるように答えると。恭也ご一行様という感じで、恭也並びに、フィリス・リスティ姉妹、美由希・那美・知佳の混合友人と、葉弓と言った感じで、高町家からほど近い海鳴神社へと初詣に向かった。 「うっわ〜〜」 「人、多い」 知佳とリスティは海鳴神社の喧騒さを見て声を上げていた。 「いつもより多いかも」 「そ、そうですね」 「こんなに一杯になるのって始めてみました」 美由希と那美とフィリスも、半ば唖然としながらその人混みを眺めていた。 「以前よりも人手多いんだ……」 葉弓も半ば唸りながらその光景を眺めていた。 「此処で立ち止まっていても、初詣は終わらない。互いに離れないように、境内を歩くとしよう」 「うん、恭ちゃん」 「わかりました」 「うんうん、お兄ちゃん」 「わかりました。リスティもそれで良いでしょ？」 「ボクは只のおまけだから、ついていくだけだよ」 「はいーーー」 恭也の言葉に皆は頷くと人波の中に分け入った。 「とととっっ………」 「大丈夫ですか？那美さん」 途端に那美がヨロヨロとしたので、傍にいた美由希が手を取った。 「あーー、すみませーん」 那美が恥ずかしげに微笑んだ。 「はぐれると大変ですから、手を繋いでいきましょうか？」 「あ、お願いします」 美由希は那美の答えに頷くと、手を取り人混みの流れを読むように歩き出した。それを見ていたリスティが後ろを振り返った。 「フィリスー、知佳ー」 リスティの呼び声に二人は、人混みに飲まれないように近寄ってきた。 「何、リスティ？」 「どうしたの？リスティ」 「ん、ボク達もはぐれないように手を繋がないか？」 「ん―――――、私は良いけど。フィリスは？」 「私も構いませんよ」 「ＯＫ」 リスティが手を差し出すと、フィリスと知佳はその手を握り、少しだけ恥ずかしそうにした。 「ちょっと頬がゆるんじゃうね」 「そうかも」 「いくぞっ〜〜〜」 有無言わせぬように、リスティが知佳とフィリスを引っ張って歩き出した。 「あっ、待ってー、待ってよー、リスティ」 「ちょ、ちょっとくらい待ちなさいー」 半ば引きずられるように、二人が歩き出した後ろで、葉弓が器用に人混みを縫いながら、付いてきていた。 「抜け切れそうか…………ぁっ」 葉弓が呟いたとき、一瞬の油断が生まれた。偶々傍にいた急ぎ足の男に、肩をぶつけられ、体勢を崩した。 「！！」 葉弓が体勢を戻せずに、転んだ姿を男がチラッ見た。 「悪いな〜〜ゴメンよっ」 男は振り返りもせずに、人混みの中に消えて言った。、バランスを崩し転んだ葉弓を、弾くように多くの人達が、過ぎ去っていった。 「痛っ！」 葉弓は少し目を瞑った後、足元を見た。すると祖母に用意して貰った下駄の緒が切れ、着物の膝は土で汚れていた。 「此くら…………痛っ！！」 葉弓は痛みで顔を少し歪めると、恐る恐る足の指に手を滑らせた。途端に痛みが走り、葉弓の表情を曇らせた 「少し痛めちゃった」 葉弓は少し悲しげに呟くと、そっと顔を上げた。其処には傷ついた葉弓などに目もくれずに、楽しげに歩く流れしかなかった。 「……………」 葉弓は寂しげに指を少し噛んだ。  「ん？」 それは最初に恭也が気がついた。 恭也は少し見回した後で、視線をやってくる美由紀達の方に向けた。 「美由希やフィリス先生達はいるようだが、葉弓さんの姿がないな…………」 恭也は人混みの中で迷う様な葉弓ではないと思いつつも、何処かドジさが浮かぶ葉弓が心配になりだした。近寄ってくる美由希達を確認すると、懐の飛針に手を伸ばした。 「美由希は問題ないだろう。まさかと思うがな」 恭也は美由希達に済まないと思いつつ、意識を深くした。途端に世界が色褪せ、灰色が一面を覆い尽くし、その中を恭也は一歩足を踏み出していた。 『葉弓さん……………』 恭也は脳裏に浮かぶ不吉な予感をうち消しながら、人混みにその身を滑らしていた。 「ぐすん………折角、お婆ちゃんに選んで貰った着物を着て、恭也君達と一緒に初詣に来たのに、私ったらこんな処で一人っきり」 葉弓の目からポロポロと涙がこぼれ、葉弓はそっと両手で顔を覆い、声を殺して泣き始めていた。 今日という新年を、二人っきり…………とは言わないまでも、肩を並べて祝いたかった思いと、切ない想いとが重なって、葉弓に『世界に置いて行かれる』と言う錯覚を抱かせつつあった。 『ハァ、ハァ、葉弓さんっ！』 葉弓はビクンと体を震わせた。その優しい声に驚いて、その優しい声に心配そうな声色を感じて、葉弓は涙を零しながら顔を上げた。目前には息を切らせている恭也の心配そうな視線があった。 「・・・・・」 恭也は何も言わずに、葉弓の手を取ると、自分の肩に預けるように置いて、そっと葉弓の足を持ち上げた。 「恭也、くん」 「…………」 恭也は葉弓の問いかけに答えずに、葉弓の小さな足をそっとさするように撫でた。 「っ」 恭也の指が葉弓の足の指にさしかかると、葉弓が小さく顔を歪めた。それを見て恭也は安心するように息を吐くと、懐からハンカチを取り出して口でそれを細く切り裂いた。 「指は少し擦れて痛めただけのようです。下駄の方は直してみます。暫く俺の肩に手を置いて、待っていて貰えますか？」 「は、はい」 葉弓が涙を拭い、頬を少し赤らめながら、小さく頷くのを見た恭也は、小さく微笑むと下駄に切り裂いたハンカチを通して直し始めた。 見つめていた葉弓は本当に小さな声を漏らした。 「有り難う………」 葉弓の声に気がつかない素振りで、恭也が指を動かしているのを見て、葉弓は赤くなりながら、幸せな気分になりながら目を閉じた。 「このくらいか」 恭也は呟くと葉弓の手を取り、支えながら立ち上がった。 「履けますか？」 「ちょっと待って」 葉弓は恐る恐る下駄に指を入れて足を少し踏み出した。すると小さな痛みが葉弓の足を走った。それを認めた恭也が視線を葉弓の足に向けた。 「痛みますか」 「う、うん。でも大丈夫、歩けるよ」 葉弓は恭也に片目を瞑った。 「もし良かったら」 恭也はそっと肩を差し出した。 「少し足を引きずるよりは良いかと思う」 「う、うん」 葉弓はドキドキするように手を肩に載せると、躯を少しだけ預けるように恭也と歩き出した。無論、恭也は葉弓になるべく負担をかけずに、より良い道を選んで歩き出していた。それは少なからず感じた葉弓は小さく微笑みながら、唇に指をあてるとそっと恭也の頬にその指を押しつけた。 「………………」 恭也は無言で葉弓を見つめた。 「何でもないよ」 葉弓は恥ずかしげに顔を伏せた。 「もう少しでみんなと合流できます」 「はいっ」 葉弓はこの一瞬がもっと続けば良いと思いながらも、続いたら心臓がドキドキしすぎて壊れちゃうなー、とも思いながらその一時を楽しげに歩いていた。 『あ――――、恭ちゃん、葉弓さん』 『『葉弓さん、何かあったんですか？』』 遠くから心配そうな声と、近寄ってくる美由希と那美とフィリスの姿を見て、葉弓と恭也は一瞬だけ、視線を交わした後で微笑んだ。 「一寸下駄の緒が切れちゃって」 「済まない、遅れた」 そんな二人を知佳とリスティがジッと見つめていた。 「葉弓、なかなか上手くやったみたいだね」 「んーーーー、それは構わないけど」 知佳が少しだけ寂しそうにした。 「やきもち？」 「違うよー、一寸寂しいかなぁ〜って言うのと………葉弓さんとお兄ちゃん……ううん、恭也君って、なかなかお似合いかもって思っただけ」 「そう？」 「そうなのだよ」 「まぁ、そう言うことにしておく」 「ん？気になるなぁ」 知佳が不満そうにリスティを睨んだ。 「まー、そろそろ葉弓達の処に行こうよ」 「了解〜」 知佳は楽しげにリスティに並ぶと歩きだした。 「？」 リスティは一瞬首を傾げたが、納得するように頷くと、葉弓達の傍に駆け寄った。 「恭也〜葉弓に何かしてないよね」 『ちょ、ちょっと、リスティー』 『リスティーさんっ』 葉弓と知佳の声が重なるのを聞いたリスティは、クスクス笑いながら、そんな二人を楽しげに見つめていた。 そして葉弓は、小さく恭也と一瞬交わした手を、思い出すようにそっと握りしめると幸せそうに目を閉じた。 新しい年の始まり、葉弓と恭也の歩みは始まったばかり。そして互いの小さな想いも始まったばかり。そんな二人と友人達を新年の蒼い空はそっと祝福していた。 おわり あとがき・・・ 投稿再開後の一発目のはゆみんですｗ 結構書き足したり、書き直したりしたので、少しは見やすくなっているとは思うんですが・・・・・どうかなぁ〜〜 恭也とはゆみんは新年も仲がよいようです ではではーー |