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「じゃぁいっくでぇ！せぇの…」 「「「「かんぱ〜い！！」」」」 ……一体全体いつこうなってしまったんだろう？ 俺自身、首を傾げながらその異様に盛り上がっている会場（というか俺の部屋なんだが）を横目で見ながら心の中で呟いた。 こみっくパーティーＳＳ 〜騒動歌（さわぎうた） （作：月華） 最初のことの始まりは、俺が彩の絵本出版を記念して自宅で二人だけのささやかなパーティーをしようとしたことだった。 「和樹さん。あの……」 「彩はそこで座ってて。今日は主役なんだからそこでじっとしてれば良いんだから」 「でも……」 俺の言葉を聞いたものの、彩は『何か手伝いたい』と上目使いで俺を見てきていた。 そんな姿を見ると （くぅ！かわいい！！） などと俺は内心涙を流しながら目の前のブツを相手にしていた。 本来なら二人でどこかに食事に出かけたかったんだが、彩が人込みは嫌だということでこうして自宅でする事にしていた。 で、いつもは彩に料理を作ってもらってる俺としては、今日ぐらいはゆっくりと、のんびりして貰うつもりで俺が料理を作る事にしたのだ。 まぁ、実際最近は作ってなかったから多少の失敗（といっても焦がす程度だが）をしながらも徐々に料理は出来上がっていった。 ちなみに今回の料理はやはりディナーといえばステーキ！ ……ってのは俺が貧乏性からなのか？誰か同意して欲しい気もするが… それはさておき、他の料理としては、コーンポタージュスープやサラダ等と、ちょっとしたコース料理を真似て作ってみた。 ちなみにデザートまでは作る暇がなかったので、近くのケーキ屋に注文してある。 注文、と言うのはちょっとしたオーダーにしてあるからだ。 たぶん時間指定で持ってきてもらえるので食事の終わりぐらいには届くと思うんだが…… と、なんだかんだしているうちに自分の料理もほぼ完成。 あとは食卓の上に持っていくだけ…… 「和樹さん」 「おぅ！？」 いきなりの彩の声に考え事で別世界に飛んでいた俺は思わず慌てた声をあげてしまった。 「きゃ！」 俺の声にびっくりしたのか、彩もかわいらしい声をあげる。 ……かわいい声だなぁ…… …いかんいかん、また別世界に飛んじゃやばいぞ。 俺は頭を振りつつ、声をかけてきた彩に向き直る。 「どうしたんだい？」 「いえ、もうそろそろ終わったようなので料理を運ぶのを手伝おうかと……」 相変わらず声は小さかったが、そんな彩の気遣いに俺は微笑みで返し 「ありがと。じゃ、いっしょに運ぼうか」 そして二人して、ささやかなディナーの準備をしていった。 ちいさなテーブルだが、その上に並んだ料理の数々を数本の蝋燭が照らしていた。 少しでも雰囲気をだそうと思い、電気を消して蝋燭にしたのだが…その目論見は良かったみたいだ。 蝋燭の明かりで照らし出される料理達。普段でも結構見栄えがいいが、頼りない明かりによって照らし出されると余計に… …なんと言うか雰囲気が…うぅむ。いい表現が思い浮かばねぇのが悔しい。 とにかく、蝋燭の明かりで照らし出される彩の姿も儚げで、それでいて美しいということだけは確かだ。 俺は、自分と彼女のグラスにワインを注ぎ、食卓の中央付近にグラスを差し出す。 彩も俺に倣ってグラスを差し出してきてくれる。 俺は至福のときを感じていた。そう、この後にあんなことが起きるなんて考えてなかったから…… 「じゃぁ、彩の絵本出版を記念してカンパ……」 イ、と言おうとした瞬間、 「「その乾杯ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁぁ！！！！！」」 ＰａｌｉｉｉｉｉｉｉｉｉｉＮＮ！！ 叫び声と窓ガラスが割れる音と壁をぶち破るような音が聞こえてきたのは同時だった。 「な、な、なんだぁぁぁぁ！？」 「きゃぁ！」 彩は頭を守るように手を被せて机に突っ伏す。 俺はと言えば、突如として部屋に乱入して来た奴らに目を向ける。そこにいたのは… 「久しぶりやなぁ、和樹！」 「ポチぃ！何あたしに許可もなく騒いでるのよぉ！！」 『猪名川 由宇』に『大場 詠美』であった。 「な？なななな……？？？？？」 俺が呆然としている間に二人は好き勝手な事をし始めていた。 「ん〜…部屋が暗い！やっぱりこういったときは明るくしないと！」 詠美はテーブルに立ててあった蝋燭を一息で消すと部屋のスイッチを入れる。 おかげで部屋の散かりようが否応なく飛び込んできた。 そして由宇と言えば… 「お？結構おいしそうなステーキやないか！一切れ貰うで… ん、おいし！」 俺の皿においてあったステーキを勝手に食べ始めていた。 「お、お前ら！一体何しに来たんだ！！！」 何とか自分を取り戻して二人に詰問する。 が、二人はすました顔で 「「お祝い」」 と一言で片付けるとまた部屋を物色し始める。 ここは俺の部屋なんだぞ！と叫びたくなるのを何とかこらえて、もう一度二人に近寄り詰問する。 「お前ら…床を壊したり窓ガラスぶち割って入ってくるのがお祝いの方法なのか！？」 「えぇやんか、和樹。そんな些細な事で」 「どこが些細な事なんだ！！！修理するのはこっちなんだぞ！」 「そこら辺はあの大馬鹿が払ってくれるからだいじょぶやろ」 「ちょっと、子パンダ！一体いつの間にそんな事決めたのよ！」 「たった今や」 「きぃー！！！」 「うわぁ！！ここで喧嘩するなら外でしろ！！！」 慌てて二人の仲裁に入る俺。…なんでこんな事してるんだろ？ ちょっと自分を嘆きつつ下を見る。と、ふと二人が何かを持っている事に気付く。 その視線に気付いたのか由宇が持っているモノを俺の目の前に突き出してにっこりと笑う。 「まぁ、お祝い品や」 そして紙で包まれた中身を見せてくる。そこにあったのは… 一升瓶、であった。 隣で詠美も手に持っていたペットボトル(１.５l)をこれ見よがしにみせてくる。 思わず頭を抱えたくなるのは仕方がない。 ってか、それ以外に行動取れないだろう？そうだろう？誰かそうだと言ってくれ！！ その後、なんだかんだといちゃもんをつけながら部屋を飾り付けていく二人。 呆けてその姿をみていたが、ふと、何で彩の出版の事を知ってるのかという疑問が俺の中に浮かんできた。 実際、この二人に知られたらこういう風になるのはわかっていたので教えていない。 で、大志。あいつがいるとどうなることか……考えるのも恐かったので真っ先に却下。 瑞希。あいつには悪いとは思ったが、二人っきりでやりたかったので後日教えようと思い、まだ教えていない。 だから瑞希から情報が漏れるという事は無いはずだ。 残りのメンバーに関しても同様で教えていない。 だからどこから漏れたのか全く見当がつかなかった。 うだうだ考えるよりも直接聞いたほうが早いと思い、何やら紙で作った鎖を飾り付けている由宇に聞くことにした。 「なぁ、どこで彩の出版の事知ったんだ？」 俺の質問に由宇は簡単に 「大志はんからや」 と、答えてくれた。 ……ん？大志？？ あいつには先程述べたように教えてないはずなんだが…？ 「えっと…」 俺が口を開こうとしたとき ガラッ 突如押し入れの戸が開くと同時に、今現在、最も聞きたくない奴の声が部屋に響き渡った。 「フッフッフッフッ…我輩に隠し事なぞ不可能なのだよ、 マイブラザー！」 「大志！てめぇは毎度ながらどこから出てくるんだ！しかも、派手にライトアップまでしやがって…」 そう、あろうことか大志の奴は頭上から五色の光を浴びながら押し入れから出てきたのだ。 「ん？あまり細かいことなぞ気にするな、マイブラザー。禿げるぞ？」 「全然細かくねぇ！」 はぁ。こんなことになると思ったから教えたくなかったんだ。 「ん？どうした？我輩が何故照明に照らされてるのか気になったのか？？」 「まぁ、それもあるが、いつ、どこからそこにいたのかが気になったんだよ」 もう投げやりで答える俺。 こいつといて人生に退屈はしそうに無いが、疲れることは確かだな。 「そうか。そんなことが気になるか。仕方がない、今回は特別に教えて進ぜよう！ 『いつ』と『どこから』ということだが、三日前から隣の部屋の住人に我輩が秘蔵していた『カードマスターピーチ』の （１０００個）限定特注生産フィギュアを手渡して突貫工事をしていたのだよ。なるべく音を立てずにな」 「………（まさか隣に住んでる奴も俺達と同類だったのか…？）」 俺が心の中で思っていることに構わず大志の話は続く。 「そしてようやくこの照明が完成したのが今朝方！それから今までタイミングを計って潜んでいたと言うことだ。 これで疑問は氷解したか？マイブラザー」 「あぁ」 力なく項垂れる俺。そして先ほどの大志の言葉で引っかかった部分を思い出し、口にする。 「『ケサガタカラ』…だと？？」 「そうだが？それが何か気になったか？」 今朝。 その単語に昨日の彩との熱い夜のことが思い浮かぶ。 そして、今朝はまだ元気だったものでそのまま…… ま、まさか！？ 俺が愕然と大志を見ると、奴は不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。 「あぁ、そういえば今朝方の行動はここにあるデジカメに…ぐぼぉ！？」 デジタルカメラ（通称デジカメ）を出した瞬間、大志は後ろからはたかれ大きく前につんのめった。  「い、痛いではないか！」 振り返った大志が見たものは…十二月こみパ（通称冬こみ）のカタログを持っている彩だった。 「………！！！！！」 彩は真っ赤な顔をしながら容赦なく大志をカタログで叩いていく。 「いた、痛い！あ、角は」 ボグ！！ かなりの快音を立てて大志は床へと沈んでいく。 それを見ながら俺は （なんか真っ赤な顔の彩もかわいい） 彩に見とれていた。 その後、大志が復活する前にデジカメを回収して部屋を見渡すと… 「……おい」 物の見事に飾り付けされた状態になっていた。それもかなり派手に… そしてそれで気をよくしたのか勝手にグラスを持ち出して、持ってきた飲み物を飲んでいる二人。 …お前らなぁ…… もう、何も言う気力は無かった。いや、言っても無駄だということにようやく悟った。 否が応にも、な。 「和樹もぼさっとしとらんと早よぅこっち来て一緒に呑も！」 由宇。誘ってくるのはいい。が、なんでハリセン持って手招きするか？ 俺は近づいたら問答無用で張り倒される姿を想像し、無視する事にした。 そして、大志のデジカメを操作して、証拠映像を消そうと… 「きゃはははははははは！パンダがぶんれつしてるぅ」 消そうと努力… 「ん〜。やっぱつまみは肉やなくてスルメとかの方がえぇなぁ」 ………… 「あ〜！？ポチもぶんれつしてる！！ずるい！！」 「和樹ぃ♪すまんけどつまみ買ってきてくれへんか？」 出来なかった。 こいつら…酒入るとうるさいんだな…… もう、何度目か覚えてもいない溜息をついているときであった。 ピンポ〜ン インターフォンが鳴ると同時に 「お邪魔しま〜す♪」 見覚えのある人物―瑞希がそこにいた。 「瑞希！？な、何でお前が…」 俺の問いには答えず、瑞希は俺の部屋を見渡し、その途中で由宇達二人を見て苦笑しながらテーブルに持ってきた物を置いていた。 「ちゃんと飾りつけはしてくれたみたいね。あ、由宇ちゃん。これおつまみね」 「お、ありがたいことやわ。ちょうど今欲しかったねん」 言いながら持ってきた袋から出しているのは…つまみ？ 他にも鳥の唐揚げやら春巻きやら…どうやら料理の数々を持ってきたみたいだ。 「…瑞希さん？」 「なに？」 「その料理は一体……？？」 「あ、これ？彩ちゃんの出版祝いにって持ってきたんだけど」 何で瑞希まで知ってるんだぁぁぁぁ！！！ 俺が心の中で叫んでいるときに… ガチャッ 「おじゃましま〜す」 「あらあらあらあら。綺麗に飾りつけ出来てますね」 「にゃぁ！遅れちゃいましたですぅ！！」 新たな人物がきた。 ちなみに上から順に玲子ちゃん、南さん、千紗ちゃんである。 ………って、また人数増えてるし…… 挫けて粉になりそうな気持ちを何とか立て直し、もう一度、心の底から疑問に思っている事をみんなに聞くことにした。 「なぁ、何で彩の出版の事をみんなが知ってるんだ？」 「だからウチ達は大志はんから聞いたって…」 「由宇達は聞いたからいい！」 「うぅ。ポチがいじめるぅ」 「和樹！詠美ちゃんを泣かしちゃ駄目でしょ！！」 「だぁ！頼むから俺の話も聞けぇ！！」 「そんなに怒ると頭の血管切れちゃうぞ？和樹君」 「にゃぁ。お兄さん怒ると恐いですぅ」 「……ゴメン。で、玲子ちゃんと千紗ちゃんは誰から聞いたの？」 俺の問いに二人は声をそろえて 「「大志君（のお兄さん）」」 と答えてくれた。 …てか、元凶はあいつか？？？ だが、あいつはどうやって情報を…？？？ 「あのぅ」 俺が首を捻って考えていたが、南さんの答えでその疑問も氷解した。 「えっと、私が大志さんや瑞希さんに教えたのですが…何かいけなかったですか？」 うっ！下からの見上げる目で…そう、例えるなら「捨てられた子犬が『拾って』と言わんばかりに見上げる目」はやめて下さい。 かわいすぎます。南さん。 ……いや、暴走してる場合じゃないだろ、自分。 「え、でも俺は南さんにも教えてなかったんですけど…誰から聞いたんですか？」 それを聞き、南さんはポンっと手を打ち、 「私は先輩からです」 「先輩？？？」 「あ、和樹さんは知らなかったんでしたっけ？澤井編集長は私の高校時代の先輩なんですよ」 その答えで全ての疑問は解けた。 俺は彩の絵本の出版に関して、一番世話になっている編集長に相談をしたのだ。 そこで出版するにあたり見本を編集長に見せた所二つ返事で出版する事が決まり… その情報を（俺の知らないところで）俺の知り合いでもある南さんに報告した。 南さんは大志や瑞希は俺の知り合いだから当然知ってるであろうと話をする。 だが、俺は二人に教えていない。 で、今回の事件が起きた、と…… むぅ。編集長に口止めしといてもらうべきだったか。 でも、もう起きた事は戻らないしなぁ… 俺が後悔の念に駆られているときに、由宇がみんなにグラスを渡してそこにジュースやら酒を注いでいる事に気がつかなかった。 そして俺にもグラスを渡す。 我に返ったときには由宇が椅子の上に立ち上がって音頭を取っていた。 「今回は彩はんの絵本が出版されると言うことでお集まりいただきました！」 パチパチパチパチ 「やけど、それを教えずに二人だけでしようとした不埒者がおる！！」 ブ〜ブ〜！ 「で、今回ウチ等がすんでの所で乱入したおかげで、この乾杯が出来る事になりました！」 パチパチパチパチ …さっきの拍手より心なし大きいような… 俺の気持ちを無視して由宇の演説（？）は続き、そして… 「じゃぁいっくでぇ！せぇの…」 「「「「かんぱ〜い！！」」」」 みんなでグラスを合わせてパーティーが始まった。 それからしばらくは食事をしたり話をしたりで盛り上がっていたが、俺はふと一人でベランダに逃げた。 「ふぅ」 みんなで祝うのは楽しい。 だが、今日だけは二人だけでやりたかったんだけどなぁ、と苦笑をもらす。 「和樹さん？」 声に呼ばれて振り向くとそこには頬を軽く赤く染めた彩が立っていた。 「どうしたの？」 俺が優しく聞くと彩は俺の隣に来て 「いえ、二人っきりになりたくて」 顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。 そんな彩を微笑ましくおもいながら、空いっぱいに広がった星を見て話し掛ける。 「楽しい？」 「はい」 「よかった…」 短い会話。だけどお互いそれで分かり合えるから良い。 「でも、やっぱり二人っきりで…祝いたかったです」 やっぱり考えてた事は一緒だったか。 そして俺達二人は星を見ながらのんびりと過ごす。 が、俺は忘れていた。例の『ブツ』を。 ピンポ〜ン インターフォンが鳴る。俺が出ようとするより早く 「あ、はい。今行きます」 瑞希が行ってくれた。 ま、瑞希なら問題はないだろうと安心する。 「あ、ここにサインを…あ、はい。じゃ、どうも〜」 宅配便が来ていたらしい。 ……タクハイビン？ そのとき、今までのドサクサで忘れていた事を思い出す。 「なぁ、なんなんや？その中身？」 「えっと、『ナマモノ』って書いてあるみたいだけど」 その直後大慌てで部屋に戻る俺。 「にゃ！ケーキみたいですぅ」 「あらあら、そういえばお祝いのケーキは買ってきてなかったわ」 頼む！まだ開けないでくれ！！ってか、開けるなぁぁぁぁぁぁ！！！！ 神は俺の事が嫌いらしい。いや、面白がっているのか？ 「「「「「「「「わぁ」」」」」」」 俺が部屋に戻ったときにはケーキが…開いていた。 あとから入ってきた彩も真っ赤な顔がケーキを見てさらに赤くなる。 その後、俺と彩は皆から冷やかされたり祝福された。 実際、あのケーキは他人見せれるようなものではなかったのだ。 俺の精一杯の勇気を出したプロポーズの言葉が書いてあったのだから… Ｆｉｎ |