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――はじめに―― この物語は「とらいあんぐるハート２ さざなみ女子寮」の陣内美緒シナリオから分岐する、藤田望のシナリオを基に執筆されております。 その為、美緒から望ちゃんに至るシナリオをクリアしてからお読み頂けると、幸いです。 それでは、つたない物語にしばし、お付き合い下さいませ。 情景 〜思う事、想う事〜 初めて会った時、背が高くて、ちょっとおっかない人だと思った。 藤田望が、槙原耕介に抱いた第一印象。それがいつの間にか、 （大事な人、大好きな人） に変化していた。 家族や友達とは、また違う「好き」という感情。 耕介、という「大好きな人」の事を想う感情。耕介と話したりしている時に思う感情。 想う事、思う事。 ちょっと怖がりで、人見知りをする望が、確かに抱いた感情。 思う事は、楽しい。 リビングで、みんなとゲームして遊んだ時。 「ザワークラウトは、何を材料にした料理でしょうか？」 一緒に遊んでいた真雪さんに、締め切りの事で電話があったと、困った顔で話していたこうすけさんが、料理の問題が出た途端に、 「キャベツ！」 こうすけさん、実は結構ノリが良い人なんだって分かって、とてもおかしかった。 ひとつ、こうすけさんの事が分かると、それが嬉しい。 一緒に遊園地に行ったり、水族館に行ったりした事。 遊園地では美緒ちゃんに引っ張られて、色んな乗り物に乗ってきた。 わたしたちふたりを、優しく微笑みながら見守るこうすけさん。あ、そういえば。ちょっと疲れたような笑顔だったかな。 美緒ちゃんが、もう元気一杯で。全ての乗り物を駆け足で遊び尽して。疲れたけれど、すごく楽しかった。 遊び終わったわたしたちを迎えてくれた、こうすけさんの優しい笑顔を見て、わたしはどきどきした。多分、ほっぺが真っ赤になるくらい。 一緒に水族館に行った時。 こうすけさんと手をつないで、ゆっくりと、お魚さんやあざらしさん、ペンギンさんを見ながら歩いた。 わたしの小さな手を握ってくれる、こうすけさんの大きくて、さらっとした温かい手。帰り際に、わたしの頭を撫でてくれた大きな手。本当に、とっても安心する。 こうすけさんのあぐらに、すっぽりと収まった事もある。すごくどきどきした。 全身が、こうすけさんに包まれているような気がして。 大きくて、温かくて。 「……あ、あの……わ、わたし……なんだか……です……」 右腕に支えられて、左手で頭を撫でられて。言葉が言葉にならない。 でも、とても嬉しかった。 想う事は、時に嫉妬を伴う。 こうすけさんの事を、いい人だなぁと思うようになってから、美緒ちゃんの事が羨ましく思えてきた。 どうして？ 美緒ちゃんはわたしの、 （まぶだち） でしょ？ なんで？ だって。だって。 だって、美緒ちゃんは、わたしよりもこうすけさんの側にいるから。 わたしよりも、こうすけさんに甘えられるから。 わたしよりも。 こうすけさんに、何の遠慮もなく甘えられる美緒ちゃん。 こうすけさんの、側にいる事が出来る美緒ちゃん。 羨ましい。 美緒ちゃんが突然大きくなってしまった時は、本当に気絶してしまったくらい、びっくりしたけれど、それでも元に戻れるように神社にお参りしたりもした。薫さんのお札で美緒ちゃんが元に戻った時は、本当に嬉しかった。 でも、本当に大変だったのは、それからだった。 あの時。バレンタインデーの事を美緒ちゃんに教えたのは、わたしだった。 色々とあって、こうすけさんの為にチョコを作る事に決めた美緒ちゃんが、とても一生懸命になってる姿を見るのは、楽しかったけれど。 チョコを渡した美緒ちゃんに、こうすけさんがお礼で口付けをした時、わたしはすごく胸が痛くなった。 「美緒ちゃん、やっぱりこうすけさんの事、好きだよ！」 それから、美緒ちゃんに、わたしは言った。 「……だって、わたしもこうすけさんのことが好きだもん！」 泣き出しそうになりながら、わたしは言った。 わたしも美緒ちゃんも、同じ人を好きになっていた。美緒ちゃんは、自分でその事を今まで分かっていなかったんだ。多分、きっと。 「わたし、こうすけさんとちゃんとお話できるまで、あとどれくらい待てばいいのか……どれくらい時間がかかるのか、考えただけでめまいがするよ……」 それなのに、美緒ちゃんはこうすけさんのいちばん側にいる。 「……わたしも……美緒ちゃんみたいだったらよかった！」 後になってから、わたしが感じた事を言い表せる言葉を、初めて知った。 「ふつうの人間じゃなかったらよかった……」 妬ましい。 わたしは、妬ましさを持っていた。美緒ちゃんが羨ましくて、妬ましかった。 わたしが嫉妬という言葉を実感したのは、きっとこの時だった。 言ってしまってから、後悔したけれど――でも、あの時は言わずにいられなかった。 その後、美緒ちゃんがとても辛そうな瞳でわたしを見て、わたしの事を羨ましかった、と言った事。きっと、忘れないと思う。 思う事。想う事。 「……みんな……こーしておとなになっていくのだな……」 美緒ちゃんも、おとなになっていく。 わたしも、おとなになっていく。 体だけは、どうだろう？ わたしはお母さんによく似てるみたいだから、多分、あんまり変わらないのかなぁ。 でも。 きっと。 わたしの思いは。 わたしの想いは。 変わらない。 美緒ちゃんは、これから何があっても、わたしの「まぶだち」。 こうすけさんは、わたしのとっても大事な、大好きな人。 ふっ、と、意識が現実に引き戻される。 そこは海鳴臨海公園の、いくつもあるベンチのとあるひとつ。美緒とあちこち遊び歩いて、疲れた身体を休ませていたのだった。 「望、ど〜したのだ？」 「ううん、何でもないよ。ねぇ美緒ちゃん、これからどうしよう？」 「ん〜……そろそろ、寮に戻るのだ。きっとこーすけが、何かうまいお菓子を作ってくれてるのだ」 「うん。あっ……そうだ」 「？」 「行く前に、ちょっとお家、寄って行ってもいいかなぁ？」 「いいけど、どうしたのだ？」 「えとね……こないだ買った新作のゲーム、美緒ちゃんと一緒に遊ぼうと思ったの」 「お〜、それは楽しみなのだ。よし、善は急げと言うのだ、望、早く行くのだ〜」 「ああっ、美緒ちゃあん、待ってぇ」 「にゃははは♪」 「もぅ、美緒ちゃんたら……うふふっ」 屈託なく走り出す美緒を見て、ちょっと可笑しくなる。 「の〜ぞ〜み〜、早くするのだ〜♪」 「うん！」 美緒に促されて、望もまたベンチを離れる。 ふたりの姿はやがて、涼やかな風の舞う臨海公園から見えなくなった。 いずれ、二人は大人になって――  ――それは、とある昼下がりの心の〔情景〕である―― 情景 〜思う事、想う事〜 了 後記 いかがでしたでしょうか？ この作品は、2005年10月に仙台で行われたイベント「杜の奇跡８」に参加した、サークル「海鳴堂書房」（主宰：春日野馨さん）刊行の同人誌「天使の微笑」に掲載されたものです。 ところで、一体どれほどの方が筆者の作品を読んで下さっているかは分かりませんが、多分この作品を読んで、 「何で望ちゃんなんだ？」 という疑問を持っている方もいるのではないかと思います。筆者にとってはまことに単純な話で、望ちゃんもまた、 「本編で〔ヒロインとして〕シナリオが組まれている」 からに他なりません。まぁ、美緒シナリオの途中からの分岐という事なので、最初から組まれているわけではないのですが。 とは言え、実際にゲーム本編をプレイしてみると、望ちゃんのシナリオが実は意外と奥行きがある事に、気付かされます。 最近のとらハ二次創作は、殆どが「３」をメインとした見方で、中にはＴＶ版「リリカルなのは」との兼ね合いも視野に捉えた解釈もあるみたいですが、「さざなみ女子寮」の日常からの視点は恐らく、 「とらハの源流」 とは何なのか、それを考える上で説得力があるのではないか、そう考える今日この頃です。さて、皆さんは当作品を読んでどんな事を考えましたでしょうか？ それでは、この辺で筆を擱きたいと思います。 ではでは。 |