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はじめに え〜、ななかが１５才、恭也１２才……、つまりＴＨ２時の設定です♪ このＳＳは読者方々の知り得る設定とは多少異なる場面があるかと思います。 それでも読んでいただける方は、暫しの間お付き合い下さい。 〜翠屋〜 「今日からアルバイトする事になりました、井上ななかです！！」 翠屋の黒いエプロンをしたななかがペコリと頭を下げ、店員が一人一人名前を言って答える。 「ななかちゃんにはフロアの方をお願いするわね♪ 何か分からない事があったら恭也に聞いてちょうだい♪ 恭也、井上さんにちゃんと教えてあげてね♪」 「了解」 恭也の言葉にニコリとした笑みを浮かべながら桃子は松尾を伴って厨房へと入る。 「お願いします♪ え〜と……」 「恭也でいいですよ、井上さん」 「じゃあ、恭也君て呼ぶね♪ それと、私はななかでいいよ♪」 「はぁ……」 ななかの言葉に恭也はポリポリと髪の毛を掻きながら答えると、品の略語が載っている紙片を渡し た。 「一応、注文を受けた時はこの略語を使って下さい。 まぁ、最初のうちは自分なりに分かり易く書いても構いませんが、それだと他の店員さんが書いた のが分からないですから、なるべく早めに覚えて下さい」 「うん、了解♪」 恭也から紙片を受け取ったななかはそれを一生懸命に見て覚えている。 「それと、接客の方ですが…… その紙の下にも書いてありますが、自分や他の方々のを見て覚えた方が早いですね」 「うん」 「最後に、飲み物ですが、珈琲は自分が、紅茶は陽さんが作りますので、声を掛けてください。 いない時はこの紙に……」 恭也はそう言いながらレジの下からシフト表を取り出した。 「この○が着いている人が珈琲、□が紅茶を作る人です」 「あの〜、着いてない日があるんだけど？」 恭也の手にするシフト表を見たななかが聞くと、恭也は「ああ」と呟いた。 「その場合はかあさんが作る事になってますから」 「かあさん？ あ、店長さんか……」 一瞬ななかは首を傾げるが、すぐに納得したように言う。 「ま、今日の所は自分と陽さんですので、特に問題ないと思います。 何か質問はありますか？」 「いえ、大丈夫です」 少し固まった声でななかは返事を返す。 「では、仕事の最中に何かあったら気軽に声を掛けてください」 そう言うと、恭也はコーヒーメーカーの準備を始めた…… 「いらっしゃいませ〜♪」 モーニング客が終わり、１０時になるとお茶をしに来た客で店内が騒がしくなる。 それにつれてななか達の仕事は増えていった。 「シュー３つと苺ショート１つお願いしま〜す」 注文をとって帰ってきたななかがそう言うと、恭也に向き直った。 「恭也君珈琲を２つ、陽さんレモンティーを２つ、両方ともアイスでお願いします♪」 慣れてきたのか、ななかはそう言いながら伝票を所定の位置に貼ると、再び鳴り響いたカウベルに 反応した。 「いらっしゃいませ♪ 何名様ですか？」 「二人」 店内に入ってきた客は指を二本立てながら言うと、ななかは周囲を見回した。 「テーブル席でもよろしいでしょうか？」 ななかは二人客だったために、二人掛けのテーブル席を手で示した。 「俺はいいけど、小鳥は？」 「うん、私もＯＫだよ、真くん♪」 「え……」 目の前の客の声を聞いたななかは急に驚きの声を上げた。 「？ どうかした？」 「あ、いえ、何でもありません！？ そ、それではこちらの席に」 男に話し掛けられたななかは慌てて取り繕いながら席へと案内した…… 「あ〜、びっくりしたぁ〜……」 カウンターの方へ戻ってくるなりななかはそう言ってホッと大きな溜息を吐いた。 「どうかしたの？」 ななかの様子を見た陽が紅茶を作りながら聞く。 「いま来た二人のお客さん、二人とも女性だと思ったら片方が男性だったんです〜」 ヘナヘナとカウンターへと突っ伏しながらなのかは言うと、陽と恭也がいまななかが案内した客を 見た。 「ああ、あのお客さんか〜」 客の姿を見た陽が言うと、ななかが顔を上げた。 「あのお客さん、最近ちょくちょく来るのよねぇ〜」 「そうですね、ここ最近よく来るお客さんです」 「そうなんですか…… でもびっくりしちゃいましたよ、本当に……」 「まぁ、自分も最初の二人が来た時は驚きました」 ななかの言葉に恭也は苦笑してみせると出来上がった珈琲をトレイに載せた……  二人の客が帰って暫く経つと、ランチタイムが始まった。 「ランチのパスタ、あさりスープと鮭クリームを一皿ずつ、それにシューを２個お願いします！！」 「こっちもパスタをあさりスープを２、ナポリを１、チョコケーキ１、シュー２です！！」 戦場のような店内に注文が大声で飛び交い、その間隙を縫うようにしてカウベルが鳴った。 「いらっしゃいませ〜、何名様でしょう……あ、千堂先輩！？」 ランチを持って行った帰りのななかが客に向くのとほとんど同時に驚きの声を発した。 「え……？ あぁ、あなた以前に駅前で合った……」 突然名前を呼ばれた瞳は驚きの顔をしたが、すぐにななかの事を思い出した。 「あなた、ここでバイトしてるの？」 「あ、はい♪ といっても今日からですけど」 ななかは「えへへ」と頭を掻きながら瞳に答える。 「そう、頑張ってるわね♪」 「はい♪ っと、何名様でしょうか？」 「え〜と、あとから二人くるから、合計で四人なの」 「あ、でしたら奥のボックス席にどうぞ♪」 ななかは奥の一つだけ空いたボックス席を示す。 「ありがとう♪ それじゃ行きましょうか、鷹城さん♪」 「はい♪」 瞳は後ろにいてななかとの遣り取りを見ていた唯子に声を掛けると、空いているボックス席に足を 進めた。 「お知り合いですか？」 水やオシボリなどを取りにきたななかに恭也が聞いた。 「え、あ、千堂先輩？ あの人は風高護身道部の方で、全国でも指折りの実力者なんですよ♪ 今年の夏はまだ２年ながら全国の上位にランキングするんじゃないかって期待の選手なんです♪」 嬉々とした表情でななかは恭也に説明すると、二人分の水などのセットを持ってボックス席の方へ と向かった。 「ななかちゃんて……、格闘技マニア……？」 恭也の隣にいた陽が聞く。 「さ、さぁ……」 陽の言葉に恭也は首を傾げると、厨房から出されたメニューを席へと持って行った…… 「注文入りま〜す♪」 ななかの声に厨房の桃子の返事が返る。 「え〜と、あさりスープパスタ２、ナポリの普通が１、大盛りが１、それにトーストサンドとエビ ピラフをデザートが苺ショート２のシューが３です♪」 ななかの声に桃子の了承の返事が返ると、今度は恭也と陽に向いた。 「恭也君、アイスコーヒー１つ、陽さんミルクティーをアイスで３つお願いします♪」 「はい、了解しました」 「こっちも了解♪ でも、それって何人分なの？」 注文の量に驚きながら陽が聞いた。 「一応、四人なんですけど……」 ななかは苦笑しながら答えると、厨房から出てきた違う客の注文の品をトレイに載せて運んでいっ た…… 「ありがとうございました〜♪」 最後のランチ客が帰ると、店の中は平穏を取り戻す。 「ふぅ〜…… やっと終わりましたね」 レジを閉じた恭也が言うと、ななか達が苦笑する。 「それでは、食事にして下さい。 自分はこっちの片付けをしてますので」 恭也はカウンターに設置された洗い場に立つと、陽達が「じゃあ」と言って厨房の方へ消える。 「？ どうかしたんですか、井上さん？」 他のバイト達が厨房に向かったのに対し、一人フロアに残ったななかに恭也が声を掛けた。 「あ、いや、一人で洗い物いいのかな〜って」 「構いませんよ。 それに、皆さんが昼休憩を終えた後に自分が休憩に入りますから」 「ん〜、でもな〜…… 新人なのに、先輩差し置いて先にご飯ていうのも……」 腕組みをしながらななかは真剣に考えているのがおかしかったのか、恭也はその姿に苦笑しながら 口を開いた。 「井上さんは働くのが好きなんですね」 「え？」 「いえ、何でもありません。 どうぞ、皆さんと一緒に休憩してきてください」 「う〜ん……、それじゃあ……」 同意はしたがまだ行き難いのか、ななかは重い足を引き摺るようにしながら厨房へ入って行った。 その後姿に恭也は再び苦笑すると、洗い物を再開した…… 「それじゃあ、お疲れ様でした〜♪」 「お疲れ様♪ ななかちゃん、明日は１０時からだからお願いね♪」 「はい♪」 ５時上がりのため、私服に着替えたななかはＧパンにＴシャツ、デニムジャケット姿といった女性 らしからぬ姿で皆に挨拶をし、翠屋を後にした。 「う〜ん、いまの子はあんな格好が人気なのかしら……？」 元気よく出て行ったななかに桃子は最近美由希が連れてきた晶という少女の服装を思い出しななが ら首を傾けた………… 〜〜あとがき〜〜 『不完全真空地帯』様の４０萬ＨＩＴ記念ＳＳ『アルバイト』でした。 最後になりましたが、茜屋さん、４０萬ＨＩＴおめでとうございます♪ そして、これからもよろしくお願いします♪ |