一騒動が落ち着いた所で、神奈や寮生一同リビングのソファー やテーブルの席に着いた。一人真雪だけぐったりとソファーに突っ伏しているが 他の皆は神奈に注目している。 「皆久しぶりねぇ〜…特に薫ちゃんと美緒ちゃんは見違えたわ 最初誰だったのか分からないくらい美人なんだもの」 「あはは〜ってかあたしは確かに変わったのだ〜まだ子供だったもんね〜」 「………うちそんな美人やないですよ…………」 薫が言う傍らで、楓と那美はボソっと呟いた。 「どの口がそんな事言うかな」 「きっと鏡見た事ないんだよ那美ちゃん」 「聞こえとるぞ２人共。ったくすっかり真雪さんに染められてからに…」 と薫は未だぐったりとソファーに寄りかかっている真雪を見て嘆息を漏らした。 「そういえば、初めて会う子達の名前と顔がまだ一致しないわ〜 簡単に自己紹介してくれないかしら？趣味とか、好きな事とかも聞きたいな♪ 左周りでそっちの子からどうぞ〜」 とソファーの端に座っているリスティを指差した 「う…僕からか〜えー耕介の養子のリスティ・槙原です。 仕事は探偵まがいの事やってます。好きな物は耕介の料理とお酒。 後最近の趣味は盗撮かな」 「リスティ、それだから犯罪だってば」 と妹のフィリスが突っ込む。 「何、妹の成長が見たくてね？」 「何が見たくてね？よ！しかもそれを恭也君に見せる事ないじゃない！」 と本気で激昂するフィリスをからかいながら、リスティはこう言った。 「ちょっとした姉のお節介じゃないかっ」 「そんなお節介なら要らないわよ！！」 以前それで騒動の種になった事があった。 今思い出してもフィリスは顔から火が出そうになるというのにこの姉は… 「…はぁ〜どうしてこんな人を姉に持っちゃったのかしら」 「妹よ！運命を今更くよくよしたってしょうがないぞ！」 銀髪の姉妹を、神奈は微笑ましく見ていた。 どうにも、お姉さんの方は誰かにそっくりさんなのは 気のせいではないな、と真雪を見ながら思う。 「仲が良いわね〜次はそっちの妹さんね」 「えーと、妹のフィリス・矢沢です。職業はお医者さんです。 好きな物は甘い食べ物全般と、コーヒーです。」 「好きな人恭也君〜」 「言わなくていいから！！」 と顔を真っ赤にしながらリスティをジト目で睨む。 次に、テーブルに着いている楓が次は私？と自分を指差す。 一同頷くと照れた様子で自己紹介し始めた。 「えー神咲楓、那美ちゃん、薫ちゃんの従兄弟です。 今は風牙丘中等部に通ってます。好きな物はプリン 嫌いな物はそこに居る自称へタレ悪魔使いです〜」 と視線を葉月に向ける。ゆらりと葉月の髪の毛が動いたのは 皆の気のせいではない。 「い・わ・せ・て・お・け・ば……誰がへタレですかっ！ この稀代の悪魔使いを前にへタレと言いましたね！？」 「私程度に軽くあしらわれるようじゃ、へタレと言って過言じゃないでしょうが」 「むっか〜〜〜喰らいなさい！！」 怪しげな呪符を取り出すと、呪文を唱え始める。 「いでよ！ポルポックル！！」 「出たな真っ黒黒助！！」 数匹の悪魔…いや、訂正。悪魔ではない。 霊感のある人にだけ見える＜物体＞が姿を現す。 小さめの、悪魔とも呼べない下級な存在である。 姿は思わず「まっくろくろすけ出ておいで〜」と呼んでしまうくらい＜それ＞に そっくりで、可愛いかった。実は、葉月がこいつをよく使役する理由も 単に可愛いからだったりする。 ２人がバチバチと火花を散らしている間に、妹の冬樹が手を上げて自己紹介をし始めた。 「えー私は西野葉月の妹の冬樹です〜好きな事はスポーツ！特にバスケっす。 風牙丘中等部で、一年にしてバスケ部レギュラーやってまっす！」 はい、バトンタッチと言わんばかりに、稲本加奈に視線を投げかける。 少し戸惑いながら自己紹介を始めた。 「私は稲本加奈です〜関西出身の音大生です♪好きなシンガーはＳＥＥＮＡ♪ 会っても会えないのが最近の悩みの種です」 どっと笑いが起こる。緊張しすぎて卒倒してしまうので、過去３回会う機会が あったが全て上記により会えなかったという… そして、最後に真中美鈴が自己紹介を始めた。 「えーっと、真中美鈴です〜風牙丘の高等部２年生です♪ 好きな人はここに居る全員です♪嫌いな物はお薬♪」 「駄目よ〜美鈴ちゃん。しっかり飲まなきゃ」 とフィリスが困った表情で言う。 そして、その時、ふっと、羽を広げた。紅い天使の羽が姿を現す。 フィン名称、リグ・スカーレット・ウィグ（深遠なる紅の羽）と呼ばれている その羽は、微弱な赤々とした光を放っている。 その姿に、火花を散らしていた葉月と楓も戦意を喪失してその羽に見惚れた。 「後…私ＨＧＳ患者なんです……けど…私怖く無いですか？神奈さん」 少し、真面目な顔で神奈に聞いた。 この事を告白するのは大変勇気が居る事を神奈は知っている。 神奈はゆっくり美鈴を見ると、微笑んで言った。 「怖く無いわ。久しぶりに見たけれど、知佳ちゃんの時と同じ思いが浮かぶもの… やっぱりとっても綺麗だと思うわ」 「あ…ありがとう御座います」 真雪はそれを聞いて、ぼんやり知佳の事を打ち明けた時の事を思い出した。 知佳と、自分と、そして神奈さんと啓吾さん４人ここのソファーに座って しばらく沈黙が支配していた時。 やっと知佳が言った時の神奈の反応は今のと何の変わりも無い。 知佳の人生を狂わせた羽を、周囲の人々や、親ですら疎んだその羽を 心から知佳にその羽が綺麗だと言ってくれた。 ＜うっ…うっ…あ……ありが…ありがとう…御座います……＞ ＜大袈裟ねぇ知佳ちゃん……とっても綺麗なのに…今までの人達はきっと見る目がなかっただけよ＞ どうにもこのシーンは、あの時とダブるな… 真雪はゆっくりと起き上がり、美鈴と、知佳を重なった光景が目に見えた。 全員の自己紹介が終わり、残すは唯一人…神奈さんだけである。 「さって〜私ね。現在香港で店出して働いてます〜特技は料理と人を惹きつけるこの笑顔♪ 趣味は読書と指圧かな？…嫌いな物は特にないわねぇ」 「自分で言うかね…笑顔って……」 「あらおはよう〜真雪ちゃん♪ふふふ…肩こりと肝臓のあたりがすっとしたでしょうが♪」 「そういやぁ確かにすっきりしてるな…………」 「さて、もう晩御飯の時間ね…今日の晩御飯は私に任せて貰いましょうか♪」 「「おお〜〜〜本場香港の料理！！」」 夕食は久しぶりに、耕介も初めからテーブルの席についていた。 香港仕込みの料理人なので、手伝う事もない。 というより、神奈に手伝いは要らないから〜と言われてしまった。 あれから、皆変わったはずなのに…あの人はまるで変わっていないように見えた。 少なくとも、耕介は――――――であるが。 「ご飯出来たわよ〜♪」 とすぐ側のカウンターから続々と中華料理が出てくる。 見たことも無い料理もあれば、知っている料理もあった。 「美味っ！！何これ！何て言うんですか！？」 食いっぷりの良い冬樹が神奈に思わず聞いた。 「ん〜…日本語で言うと鴨肉と野菜の春巻きね」 「タレはコチジャンと板醤合わせてるんですね…でも後一つが分からないんですが」 コチジャンと豆板醤を合わせるのはそう珍しくもない… 問題は味の決め手になっている後一つなのだが…耕介の舌でも後一つが全く分からない。 「駄目よ〜耕介ちゃん、そんなに考えても出てこないわよ。 私がこの８年研究を重ねて作り出した味だからねぇ♪」 自信たっぷりに言うだけあって、流石に耕介には分からなかった。 「「おかわり！！」」 リスティと冬樹が張り合う様に食べ始める。 怒涛のペースはとどまる事を知らず、約２０分で――――――…２人は一人３人前はあるだろう 量をあっさり平らげただけでなく、追加注文を神奈に頼んだのだった。 ずずず〜とゆっくり茶を啜りながらマイペースで食べているのは 葉月とフィリス。２人共小食なので皿にはまだまだ料理が残っていた。 美緒がひょいとその２人の分を箸で横取りしても、気にした風も無い。 「久しぶりです〜耕介さんの料理も美味しかったですけど、神奈さんのもすごい美味しいです」 薫は懐かしい味に出会えて、その味を堪能していた。 無論、愛も、真雪も、美緒もである。 豪華な夕食は時間と共にいあっさり空になり、幕を引いた。 それから皆風呂に入り、最後に神奈も入って全員が入り終えた。 浴衣姿で神奈は２階のベランダへとやって来ると、 鈴虫の鳴き声のＢＧＭと、やわらかな風が肌に触れて何とも心地良い場所に思えた。 先客が居たらしく、そこで夜空を見ながら一人酒を煽っている。 ベランダの床にあぐらをかいて座っているのは真雪だった。 神奈は真雪にに近寄り、ひょいと酒を奪って言った。 「駄目ねぇ…さっき飲んだばっかりでしょう？」 「うっせーなー…あーったく…急にあっちで結婚するとか抜かしといて向こう行った きりだったくせに、また急に帰ってきやがって……」 「あははは…ごめんねぇ〜真雪ちゃん……」 「運命の出会いだったのよ、だろ？聞き飽きたっつーの……ほれ」 と真雪はあらかじめ用意していたもう一つのコップを神奈に渡した。 神奈はそれを受け取り、酒を入れてそれを軽く飲む。 それから、真雪の隣に座って一緒に夜空を眺めた。 「は〜美味しい………そういえば真雪ちゃん結婚しないの？」 「んー最近あいつら見てると何となくしようかとも思うけど…年だしな」 と苦笑を漏らす。結婚願望が無いわけではないようだ。 その事に安堵しながら意味深な台詞の内容を探る。 「…あいつらって…耕介ちゃんと、愛ちゃんの事？」 「いやいや〜耕介と…愛、リスティ、美緒、葉月のこった…耕介が悪いんだよなぁ… さっさと一人に選ばないから…皆が皆期待しちまうんだ」 神奈は、芳しくないその状況に眉をひそめる。 「駄目ねぇ…ハーレムエンドなんて許しませんよ」 「アタシに言うなよ……ま、そのうち耕介も誰か選ぶさ。 いつまでもこのままでいいだなんて思っちゃいないだろうからね……ところで…」 「んー？何〜？」 「何で急に帰って来たんだ？正直アタシにとっちゃこっちの方が気になるんだけど」 「あははは、久しぶりにこっちに来て、皆の顔が見たくなっただけよ。 こっち放っぽって気づいたら８年も経ってたんだもの…正直、浦島太郎みたいでびっくりしてるわ」 「いや、こっちは逆浦島だっつーの…アンタの美貌は不滅かよっ？ あん時と変わらねー肌したまま帰ってきやがって…何食えばそこまで老けないのか知りたいね」 「やだ〜有り難う〜お世辞でもお姉さん嬉しいわ〜」 「いや、お世辞じゃなくて、すげー疑問だぞ。ま、とにかく…お帰り神奈さん」 照れている様子に、神奈は口元を緩めた。 「…………………ありがと真雪ちゃん」 ふいに、真雪は神奈の横顔を眺める。 あれから１２年…もう１２年も経ったのだと…今になって幾分感慨に浸る。 くいと、酒を飲んであの時の事を思い出した。 漫画家になるのだと家族の反対を押し切り、 妹の知佳を連れて新潟を家出したのがそもそもの始まり。 それから暫くは２人で放浪の生活が始まった。辛かった事だけはよく覚えている。 それでも、籠の中から羽ばたいた鳥の様に、自由な生活は知佳は嬉しそうだった。 生活は苦しかったけど、知佳はいつも笑顔で居てくれていた気がする。 狭いアパートで自分はバイトをしながら、必至になって漫画を描き続けた。 知佳も側でトーンを貼ったりして手伝ってくれて…＜漫画家＞と呼ぶ職業に就くのに４ヶ月を費やした。 そこから、自分達の人生は反転すると思ってた。 ここから、幸せになれるんだと……思っていたけど… 現実はどっしりと自分の肩に圧し掛かってきのだ。 家賃の滞納未払いで、自分達は追い出されてしまった。 折角稼いだ初の原稿料も泡と消え―――――――――また浮浪者に戻ってしまった。 今でも覚えている事だが…こんな状況でも笑顔を絶やさなかった妹に感謝している。 そしてあの日…初めてこの神奈という女性に出会ったあの日は、 しとしとと雨が降っていた。 追い出されて２日目、お金も無かった為に 少量の荷物と、疲れ果てて眠っている妹をおんぶして雨の中人込みを歩いていた。 ジロジロと行きかう人達が私達を見たけど、然程気にもしなかった。 側には電話ボックスがいくつもあって、それから財布の中身を確かめると、 一枚のテレフォンカードが残っていた。 ぐったりと自分の横でうなされている妹を見ながら、迷った。 連れ出してしまった妹の事を…返してしまおうかとも思った。 一人でなら、多分やっていける気がしたからだ。 ――――――――――――― 一人でなら―――――――――――――――――― その時、ずぶ濡れで、妹の髪の毛の先端の雫が、自分の頬に落ちてきた。 それは、首筋まで落ちて、ずぶ濡れの服にいきつく。 そこではっと、我に返った。 一人でなら？本当に？今までだって、知佳が居たからこそ頑張れたんじゃないのか？ あのアパートで、バイトや出版社から帰って来た時に、いつも笑顔で迎えてくれた 妹の存在があったからこそ自分は頑張れたんじゃないか？ それに…妹をまたあの籠の中に戻そうというのか？ あの、四角い牢獄の様な部屋にまた妹を閉じ込めてしまうのか？ 霧消に、自分が許せなくなって来た。 一人でやっていけるなんて、甘ったれた考え方に反吐が出る。 連れ出した時点で、自分は妹を護らなきゃいけないのに… 「…………………ごめんね…知佳………」 一瞬でも馬鹿な事考えて… 財布からカードを取り出してビリビリと何枚も何枚も破って捨てた。 雨がその紙屑を濡らしていく。 財布の中身は、これで完全に空っぽになった。 でも、さっきよりは清々しい気分になれた気がした。 悩み事なんて、今更どれだけ悩んだって仕方が無いし、 妹の様に笑っていれれば、地獄もまた天国に違いない。 そしてまた一歩踏み出そうとした時、さっと雨が止んだ。 上を見上げれば、傘が頭上にあり、横を見れば見知らぬ若い女性がそこに居た。 しばらく、傘の雨打つ音だけが聞こえていた。 「…え〜と……何でしょうか？……何かの勧誘なら金持ってませんから…」 ときびすを返そうとした時、彼女はこう言った。 「違うわ。傘も無しに歩いてたから目に付いちゃって…… あっそうだ！このままじゃ風引いちゃうから家に寄っていきなさい。 事情は知らないけど、何か訳ありみたいだし…ほらあの上の方に家があるでしょう？ このバス亭から１５分くらいだし寄っても損は無いと思うわ」 この女性の提案に、私は耳を傾けた。 断る理由も無かったし、もし何か企みがあるのなら、迷わず暴れてやろうと思ったからだ。 静寂の中で唯一雨音がその場を包んでいた。 とめどなく、止まる事の無い雨音だけが耳に入ってきていた。 唾を飲み込んで、喉の奥から私はやっと言葉を出した。 「………………すいません…是非…お願いします…………」 「喜んで招待するわ♪え〜とお名前は？」 「草薙――――――…いえ、私は、仁村真雪。こっちが妹の仁村知佳です」 「私は槙原神奈、神奈さんって呼んでくれていいわよ〜♪」 「はい…神奈さん、少しご厄介になります」 最初に神奈さんと呼んだのはこの時だった。 そしてバス待ち時間合わせて２５分でさざなみ寮に到着。 それから１分も経たずに私達は風呂に放りこまれた。 どうやって服を脱がされたのか、実は未だに不明である。 風呂で寝ぼけて起きた知佳はいきなりでかなりびっくりしていた。 「っぷっ！！？……って…て・・天国ってお風呂だったの！？」 「あはははは！！……そりゃネロとフランダースもびっくりだ！」 実際、自分達にとっちゃ極楽だった。 何日ぶりかのお風呂の中に浸りながら、私は妹を見つめながらある事を考えていた。 お風呂から上がると、神奈さんは服と夕飯も用意してくれていた。 テーブルについて、私は真剣な眼差しで開口一番こう言った。 「妹をここに住まわせて欲しいんです。お金は後で必ず払います。 無理なら無理と言ってくれて構いませんが、出来ればお願いします！」 「えぇ！ちょっ…お姉ちゃん…相談も無しに決めないでよ！」 「うるせぇ！お前は黙ってろ！！あたし漫画家なんです！就職してます！お願いします！」 そういって、私は頭を下げた。この時程心臓が破裂しそうな時は人生で未だなかった。 もし断られたら―――――――――そう考えると、今考えてもぞっとする。 「いいわよ〜金銭面の目処が付くなら別に２人一緒にでも。 今年は入居者がそんなに居なかったから実は空き部屋が多いのよね。 さざなみ寮は貴方達を歓迎するわ♪あ、勿論後でお金は少しずつ請求するから宜しくね」 「―――――！！………はい！宜しくお願いします！！でも…いいんですか？」 「あ、訳ありの事？ここじゃあそういうの多いから…貴方もきっとびっくりするわよ」 あっさり、すぱ〜んと、今人生の機転が始まったのだと自分で確信した。 正直、受け入れてくれるとは思っていなかった。 まだ会ったばかりなのに…ここまで人を信用するなんて 何てお人好しなんだろうかと考えていたのだけれど…… 後になってその「ここじゃあそういうの多いから」の意味を知る事となった。 でも、海より深く、口には出さないが今でも感謝している。 それから、出版社に再度連絡をつけ、何とか漫画家としてやっていける様になった。 才能があったのか、無かったのか、それは分からないけど、 頑張ったおかげで、売れっ子になるまでに時間は全然掛からなかった。 稼いだ印税と原稿料で、やっと私は食っていけるようになった。 お金を溜めて、妹の学費を稼いだりもした。 少しずつ、少しずつ……今までの苦労が泡に消える事無く… 目の前の妹の笑顔という形で現れていった。 で―――――――――あれから１２年の歳月が流れちゃったわけだ。 あれだけ苦しかった過去がもはや笑い話の種になっているくらいに 歳月は過ぎてしまっているのだという事が、今は不思議に感じている。 あの時は、死ぬか生きるかの瀬戸際だったはずなのに…この人は… じっと彼女の横顔を見つめる。それに気が付いたのか、照れた様子で言ってきた。 「何、何かついてる？真雪ちゃん」 「いんや、何も付いてないよ。人の出会いは不思議だなーって思っただけ」 「…………そうねぇ…不思議よねぇ… あの時、数え切れない程の人間の中から貴方と私が出会ったのは、ほんの偶然だと私も思うわ」 「………………………………………………」 「出会いは宝って本当よね。「絆」って一生目に見えない糸で繋がっているもの。 今も、そしてこれからも。どんなに離れていても、死ぬまで消える事はないし」 「太いか細いかにもよりだと思うけどな」 「まぁね〜♪……でも大事な事は、出会えた事。どんな形であってもそれは＜宝＞なんだわ」 「ぷっ…くっさ〜……いつから詩人になったんだよ…… でも、まぁそうだな…んじゃ、今更だけど、出会えた事に感謝して飲もう！！」 「おお〜〜〜〜！！じゃんじゃん飲もう〜〜〜！！」 どんちゃん騒ぎをしているベランダの声を、住居者達は不思議と気にならなかった。 そして、愛と耕介は、縁側からも聞こえる真雪と神奈の声を聞いていた。 ２人も涼みながら飲み交わす為に縁側に腰掛けていた。 ベランダは見えないものの、声はよく響いている。 「にしても……驚きましたね…急に神奈さん来るし、 真雪さんも顔色変えて薫ちゃん迎えに行っちゃうし」 「あははは…真雪さん、あまり表立って言いませんけど、 誰より神奈さんに感謝してる人ですから……何かしたかったんでしょうね… 真雪さんにとって、神奈さんは母親でもあり、姉でもあり、親友でもあるでしょうから」 「……母親っすか………」 「ええ、あの当時は紛れも無く神奈さんは皆の母親でしたから…そして今は… 貴方がそうだと、私は思っています。」 そう言って耕介に愛は微笑む。 「…何か、あんまりピンと来ませんけど、もしそうなら嬉しいですね」 愛は耕介の空のコップに酒を注いだ。溢れるか溢れないかの微妙な所で止める。 それに口をつけて、しばらく２人は酒は交わしていた。 煩くもない程度の泣き声で、鈴虫が夏の訪れを知らせ、 少し湿った心地いい風が、春の終わりを告げていた。 朝になると、神奈の姿はもぬけの殻の如く消えていた。 キッチンのテーブルに一つの手紙を置いて、朝早く一人で出て行ったらしかった。 全員でそれを眺めながら、どうにもあの人らしいなぁと一同思った。 たった一日しか会って居ないのに、消えてしまった寂しさが取り巻く。 嵐の様な人物が去った後は、やはり少しそういう気分にもなる。 トントン、と真雪が降りて来ると、いつものラフな格好で眠そうにしていた。 「あんだよ〜何かあったのか？」 「あーいえ、書置き残して帰っちゃいしました…神奈さん…」 「…………………あの人らしいねぇ…あ〜痛たたたたた…あ…頭が…お〜いて… 耕介、水くれ水…完全に２日酔いだわこりゃ……」 「どうします？出て行ったのさっきだから見送り飛ばせば間に合うかもしれませんよ」 耕介の提案に、真雪は首を傾げた。 「なんでんな事するんだ？」 「何でってそりゃ――――――――――」 「大丈夫。どーせまたいつかひょっこり来るさ。それに………」 「絆」って一生目に見えない糸で繋がっているんだよなぁ…神奈さん。 例えいくら細くなろうが、死ぬまで消える事はないんだ。 またいつか会おう。そして酒を交わそう。 会わなかった何年分の穴をそれであたし達は埋められるんだ。 「それに、何ですか？」 「ん？いや、何でもないよ。オラ！学生組は今日は学校だろ！さっさと飯食っていきやがれ！」 ブツクサ言いながら、学生組は朝飯を食べて家を出て行った。 キッチンには、まだぽつんと書き置きが置かれてあり、こう書かれてあった。 ―――――――――さざなみ寮の皆様へ 実は、夫と子供に置手紙残して勝手に出てきちゃったもんだから、 もう帰らなくちゃいけないの。こっちも勝手に出て行くけど許してね 皆に会えて本当嬉しかったわ〜次また会える日を楽しみにしておくわね 後、皆が誰と結婚するのか、それが一番楽しみよ。頑張りなさい耕介ちゃん♪ そして最後に、これは私のお願いというか、希望なんだけど… これからも、ここが「ここらしく」ありますように。それじゃあ、また 再見！ -------------------------------------------------------------------------------- どうも、望月葵です。 如何でしたでしょうか？出会いって本当に不思議だなぁと書いてて思います。 必然であったわけではなかったはず。 今側に居る友人に出会った事が、たまに嬉しく思う事があったりなかったり。 で、最近ネット上ですごい不思議な出会いをしたんですよ。ええ。 長編を書き続けてきてもう辞めようかって時に、自分の作品の理解者？が 突如現れたんですよ。それまで感想のかの字もなかってーのにね。 どうしてあの時期に、その人と出会えたのかすごい不思議ｗ 感謝感激雨霰です。（＾＾ 「出会いは宝」中学の恩師が言った言葉です（ぉ まぁその話は置いといて（ぇ 真雪さんの気持ちが上手く書けてればいいなぁと思います さて、それではこの辺でｗ 読んで下さいまして有り難う御座いました |