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香港にあるとある中華料理店「蓮華」は今日も大忙しだった。 連日満席のこの店は、あっという間に店前に行列が出来る。 店自体はそんなに大きいわけではないが、そこらの店よりも繁盛はしていた。 そして従業員の数はバイトさんが一人だけで、 後は店の夫婦とその子供が頑張って店を切り盛りしていた。 ある日、奥さんは休日にふと気づいた事があった。 日本を離れてから早８年の歳月が過ぎていた事に… 残してきた子供達は一体どの様に成長しただろうか？ 勿論、自分の実の子ではないが、実の子供のようなものだった。 そんな事を思い浮かべ、思い立ったが早く行動に移して手紙を執筆する。 拝啓―――――――――さざなみ女子寮の皆様お元気ですか―――――――――――― チュンチュン―――――――――と小鳥が囀る。 さざなみ女子寮の玄関の扉から出てきたのは耕介だった。 「ふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ああ…眠いなぁ〜〜」 さざなみ女子寮管理人の耕介の朝は早い。 起きてまずする事は牛乳と、新聞を取り出しに行く事である。 それから、昨日手紙が来ていなかったかを確認する。 赤いポストの中に手を入れると、一通の封筒が入っていた。 名前は………… 「……………誰だろ？………神奈？…………あっそうか、神奈さんからか！！」 すっかり久しぶりなだけに、あの人の事をすっかり忘れていたようだ。 寝癖のついた髪の毛をくしゃくしゃ掻きながら、それと牛乳と、新聞を取って、 台所へと向かった。 朝食の風景に、いつものメンバーが揃い始める。 愛、那美、楓、美緒、リスティ、そして珍しくフィリスも居る。 それから風牙丘中等部の「西野葉月、冬樹姉妹」 顔がそっくりで、髪型を分けないと誰も分からない為、伸ばしている方が葉月 短く切ってショートヘアーにしている方が冬樹だった。 冬樹は男の名前ではあるが、別に男というわけでない。 性格も葉月が冷めた性格で、 冬樹は熱血漢を絵に描いたような性格だったりと対照的な姉妹である。 趣味も前者がオカルト趣味で、後者がスポーツ馬鹿と全く違う。 よく葉月は楓と張り合っているおかげですっかり２人は犬猿の仲だった。 そして風牙丘高等部２年生の真中美鈴。 眼鏡を掛けた恥ずかしがり屋さんだったが、その性格もどこへやら ここに来てその性格が直ったばかりか、真雪とリスティの影響で、 第３の真雪さんが誕生しつつある。 フィリスが中立てし、矢沢氏推薦で彼女はさざなみ女子寮に来る事になったＨＧＳ患者である。 管理人共々思う事であるのだが、最近ＨＧＳ患者の受け入れ先になってきたなと一同思っている。 だが、実際彼女達を受け入れてくれる＜環境＞などかなり少ない。 白い目で見られたり、煙たがられたりするのがまだ世の反応であるからだ。 ここには、彼女達をそう扱い、反応する者など一人も居ない。 そういう環境を確保してあげるのも、世の中には必要なのかもしれない。 そして、音大生の「稲本加奈」 ＳＥＥＮＡが居た場所に憧れてやってきた人。 実際会った時もあったが、興奮し過ぎで頭に血が上り 卒倒して結局会えなかったという… 何故か皆容姿端麗で、美人ばかりだった。  耕介はテーブルについた全員を見渡してから、 真雪が居ない事に気がついたが然程問題もないだろうと考えを改めた。 「耕介さん、何ですか？深刻そうな顔しちゃって………」 と、加奈が聞いてくる。 それにうんうんと一同が頷き、朝食を食べながら耕介を見ていた。 「分かったのだ！とうとう耕介が身を固める決心を！？」 美緒がまた突飛した事を言うおかげで、その場の数名の目が細まった。 愛、リスティ、美緒、そして葉月である。 「…誰なんですか！？耕介さん！？」 と葉月の剣幕はすごい。 「わぁ〜〜〜〜おめでとう御座います〜〜」 那美は低血圧のせいで、半分寝かけながらパチパチと拍手 「な、何やってるのお姉ちゃん！？状況見てよ！！」 那美の従兄弟の楓は那美の服の襟首を掴んで前後に振り回す。 楓の言っている事は正しい。 朝食のまったりした風景は一転して修羅場と化してしまったのだから。 いそいそと加奈はその場から撤退する様な体勢を取っている。 一人美鈴だけその光景を眼鏡をキュピーんと光らせて楽しそうに見ているが… フィリスはこの手の問題は人事ではないので、むしろ面前よりも 窓ガラス越しに、水平線の様に見える海鳴市を見つめていた。 愛もこの年で結婚したいのか、近年耕介に積極的である。 リスティは耕介の養子ではあるが、元々耕介にベタ惚れしているし 美緒も小さい頃から徐々に彼に惹かれていったし 葉月はその３人の起爆材の様な物で、＜とある騒動＞の後彼にアッタクをしてきたのだ。 「…ああ！貴方は運命の人なんです！昨日タロットカードでそう出てました！！」 「「タロットカードかよ！！」」」 とその場の全員が突っ込んだのは各々の記憶に未だ新しい。 そして空気の悪い中、愛はにっこりと笑みを浮かべて、耕介に微笑んだ。 耕介も愛想笑いを浮かべると、愛からとんでもない言葉が出る。 「……………………昔抱いてくれたのは遊びじゃないですよね？」 「えっ！？」 「「―――――――――！？！？」」 愛以外の全員が硬直してしまう。 一番硬直していたのは他ならぬ耕介だった。 愛が最近どんどん性格が変わって来ている事に悲しさを覚えている。 それが自分のせいだとも気づいている為、嬉しくあり、悲しくもあるが。 男冥利に尽きると思えないあたり本当に罰あたりな男である。 「いや……愛さん…勿論です…はい……… え〜とですね、実は今朝こんな手紙が届いたんですよ…」 と、ピラとそれを皆に見せる。話題を変えようとしたがそう上手くいかない。 「まぁ、結婚届けですか？」 ピキ、と他の３人の表情が変わる。 「いえ、そうでなく――――――――神奈さんからですよ。何かこっちに一回来るみたいで」 「え？…………まぁ――――――」 懐かしい………そう言おうとした矢先に、耕介達の後ろから絶叫ともいえる声が響く。 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい！！」 真雪だった。何時の間にか階段から降りて来ていたらしい。 汗を滝の様にダラダラと掻きながら、ずいと耕介に詰め寄った。 「耕介！まじか！？え？マジで帰って来るのか！？」 「ええ、久しぶりに今の家の状態チェックもするからよろしくね〜♪って」 そう書いてありましたけど…そんなに嬉しいんですか？」 ちょっと興奮しすぎの様に思えていたが、それは実際そうだった。 さっきの耕介の言葉で一層汗をかいている。 「アホか！！いいか！あいつはな！＜お前の１００倍規制が厳しかった＞んだよ！！」 しばらく全員が硬直。 しかし、一人今まで呑気に飯を食っていた冬樹が質問する。 「それって前に聞いたここの初代管理人さんですよね？ 今は耕介さんが管理人なんだから関係ないんじゃないですか？」 しかし真雪は一層眉を釣りり上げて反論した。 「関係ねぇんだよ！んなもん！あいつにとっちゃーな！ ………駄目だ…あたしの大事な酒倉庫＜蔵入りシリーズ＞が全て没収されちまう！」 「お気の毒です〜」 とさも自分には関係ないですからと言った表情でコーヒー啜る葉月。 「何言ってやがる葉月！あいつはな！＜部屋はいつでも明るく清潔に＞がモットーなんだよ！ ある程度は自由だが度が過ぎると自分達の居ない間に全てどかされたり容赦なく捨てられる んだよ！！つまり！お前の＜怪しいオカルトグッズ＞も即没収な上に庭で全部燃やされちまう って事だ！わかったか！！」 ちなみに、真雪は酒蔵にあったのをを全て没収された経験があった。 健康に害だから、飲みたいときは私に言う事と規制されたのだ。 「そういえば厳しかったですよね〜結構…私はそうでも無かったですけど」 「僕も多分大丈夫だと思う。酒蔵は別にあるしね…」 「……っは！……愛さんの衝撃告白でしばらく時間止まってたわ」 「おかえりフィリス。我が妹の部屋は大丈夫かねぇ〜」 真雪は席に座って、コーヒー飲んで気分を落ち着かせた。 「耕介、いつだ！？こっちに来るのは…」 「明後日って書いてあるけど…………当てになるのかどうか分かりませんよ？」 あの人の事だしと付け加えておく。 「あ、それと、あの時のメンバーを出来れば連れてきといて〜だって」 「……………それだ！！………………ちっとでも気分よくしてもらわにゃ〜！」 どれだ？とその場の全員の頭に？マークが浮かんでいた。 九州にある神咲家宅 薫はもそもそと、布団の中を蠢く。 最近仕事が多くて、生活が反転している事が多い。 まだ、昼の３時―――――― とりあえず、５時にセットして、目を瞑る。 帰って来たのが１０時頃、１１時頃に寝たのでもうしばらく睡眠を取りたい。 頭がボーっとしてくると、夢の中へ入る合図。 完全に堕ちると、後は息遣いが部屋に聞こえる。 そこでガラリ、と誰かがドアを開けた。 「ち〜〜〜っす…久しぶり〜〜………んだよ寝てるのか」 那美も部屋に入り、薫が居るのを確認する。 「あ〜〜〜〜絶対後で怒られますよ？真雪さん」 「だよねぇ〜〜〜それあんまり考えたくないね……」 楓も姉の顔色を伺う様な眼差しで言う。 「まぁそんときゃそんときだろ」 と楽観視して、いそいそと真雪は荒縄を取り出した。 よっぽど疲れているのか、全く起きる気配が無い。 実家にいるせいもあるのだろう。それだけ安眠で来ているという事だ。 「安眠できるのはいいこった。ほんじゃまいきますか♪」 ばっと真雪は荒縄を薫に巻いて簀巻きにした。 流石に起きるだろうと思っていたが、よっぽど疲れが溜まっていたのだろうか… 「ふ〜〜む張り合いがねぇ…起こすか？」 「……今は止めて下さい……………」 と那美は懇願する。 「だな………………………んじゃ行くか美鈴、帰り頼むわ」 「アイアイさ〜〜〜♪」 と能力を開放して、それを薫に集中させる。 美鈴の能力は極めて高い。フィリスよりもコントロール性が上手く、 リスティよりも力が強い。ただ、その分能力を＜長時間＞使うとしばらくは 能力が使えなくなってしまうというえらく致命的な欠点もあった。 これは力の大小関係なく、＜長時間使用＞で使えなくなってしまう。 大概１，２日経てば直ってしまうのだが、しかしそこまで＜長時間＞能力に頼る事など稀であるが 今回はその＜長時間＞あたる。金を浮かす為途中まで何回か使った為であり、 短い間隔で回数が重なるのも、同等な意味を持つからであった。 ふわり、と薫の体が宙に浮いて、そのまま薫を瞬時に車内に転移して乗せてしまった。 流石に今は羽を出しておらず、ほんの少し能力を開放するだけでこれだけの芸当が出来る。 感覚で言えば、右腕で何かを持ち上げる感じだろうか。 「ほんじゃま、帰りは頼むわ美鈴、出きるか？」 というよりも、実際は美鈴の能力を宛にしていた。 「ギリギリ何とかなります〜」 美鈴は＜フィン＞と呼ばれる羽をを出して、力の全てを開放させる。 すると、光が真雪達を包んで、瞬時に消えてしまった。 一瞬にして外にあった車と、真雪、那美そして自分を＜転移＞させた。 勿論場所は、さざなみ女子寮である。今は庭をイメージしてそこに到着させたのである。 さっきまでの光景とは違う。まぎれもなくさざなみ女子寮の庭だった。 「いや〜…しかしすごいね美鈴は…………うちの妹もそうだったけど、 別に、この能力を使われるの嫌いなら、嫌いって言っておけよ？ そのうち便利過ぎて頼っちゃうかもしれんしな」 ここまで能力をフルに使うと、明日明後日くらいまでは能力を使用出来ない。 しようと思えば出来なくは無いが、力を制御出来ずに暴走するだけである。 「あはは〜別にいいっすよぉ〜ここの人達の為ならお安い御用っす」 どっと笑いが巻き起こる。その中で、一人我が目を疑うような眼差しで 真雪達を見ている人物がいた。 「なんで……うち……………………」 さざなみにおんねんと胸内でつっこんだ薫であった。 とりあえずリビングにて挨拶も一通り終わり、 事情を説明した後に薫が一言真雪に言った。 「まさか、寝込み襲われる思わんかったです。大体事情があるならそうと 予め言ってもらわんと困ります！」 「………留守電に何度も入れたんだけど…聞いてなかったのか？薫」 「………………そういえば今日うち以外誰も居ませんでしたね…仕方ないかもしれませんが… 那美、お前もこがん人に付き合って何しよんね？」 「あははは〜〜〜しょうがないじゃない薫ちゃん……」 逆らえないんだから、と苦笑を漏らす。 和気藹々としている最中に、モクモクと中庭の方で煙が立っていた。 何となく真雪は嫌な予感が走る。 恐る恐る、すっと窓からその光景を見た。 キャンプファイヤーの如く燃えさかる品物の数々…… も〜えろよもえろ〜よ〜どんどん燃えろ〜だっけ？ ……多分そうじゃないかと……………… と耕介の側で、あの人物が楽しそうに燃やしていた。 更に側には真雪の産地ご調達の高級酒＜蔵入りシリーズ＞も積まれていた。 「「あああああああああああああああああああああ！！！！！」」 思わず薫強襲部隊の面々は大声を張り上げた。 「……うん、遅かったみたい真雪さん」 と愛はリビングに現れるなり、苦笑を漏らして一言呟いた。 そして中庭――もとい耕介の側には、 抗議しようとしていた葉月と加奈が、 何故か恍惚とした表情で、息を荒げながらぐったりとした表情で倒れていた。 「何〜真雪ちゃん、いくら私でもそこまで鬼じゃないわよ〜いやね〜もう」 現在午後４時現在、テーブルに全員席につくと、さっきの事について話す。 そう、さっき燃やしていたのは、要らなくなった備品や、神奈が残していった物であった。 ダイオキシン問題にならない様、ちゃんと木材だけを燃やしていたのである。 それを知った時の葉月と加奈の反応と言ったらもう… 「「かっ神様〜〜〜〜〜！！！」」 と目を輝かせ、２人はカ神奈のももあたりにガッシリ抱きついたりしていた。 皆が安堵している中、一人真雪には気になる事があった。 「何であたしの＜蔵入りシリーズ＞だけごっそり抜いてるんだよ！神奈！」 「えぇ〜だってぇ〜♪…………………………よっと」 すっと真雪の背後に回り、背中のツボをぐいと押し始めた。 それを見て葉月と加奈は硬直してガタガタと震え始める。 実は速攻この餌食となったのはこの２人だった。 すぐにあの時の事を思い出す。 耕介の前であの様な醜態を晒してしまった葉月は耕介にこう言ったくらいである。 耕介さん〜私…もう貴方のお嫁に行く資格ありません… そんな大げさな…と耕介は思っていたが、 ＜感じてしまった＞罪悪感に葉月が捉われていたとは、耕介には知る由も無い。 究極の愛撫と呼んで差し支えないくらい、気持ちいいマッサージなのである。 「ぐあっ！！痛い！！痛いって！！あたたたたたたた！！ちょっまじ勘弁してくれ！」 「あらあら〜相当肝臓傷めてるわよ〜 私が居た頃より駄目ねぇ…じゃあこんなのはどうかしら♪」 そしてツボの位置を変え、押し方に緩急をつける。 「あっ……んっ…っあぁっ…ひゃっ…んっかっかんなっ………やっやめっ…」 「ふふふ〜韓国人直伝の秘伝マッサージよ〜 ここに居た頃よりもっと進化した私の免許皆伝の腕前見せてあげるわね♪ 向こうの人達にも、愛撫みたいに感じてくれる人が居て面白いのよこれが♪」 「あっん〜〜〜っばっばか！みんなっとっと…とめぇっ…あっ…あぁっ」 快楽に溺れ始める真雪を見て、初めて会う人間は皆悟ってしまった。 ＜あの真雪ですら赤子の如く扱う人物に自分達が敵うはずないと＞ そして、固唾を飲んで、真雪の珍しい＜赤子の様に扱われる様＞を じっくりたっぷり見たのだった。 |