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Ｉｎｔｅｒｍｉｓｓｉｏｎ 恭也＆矢沢先生 「ほら、これも可愛いだろう？」 「…………はあ」 恭也は呆然としていた。 （確か、フィリス先生の現状とその理由について、説明を受けていた筈なんだが……） 目の前には、嬉しそうにアルバムの写真を見せる、矢沢義之医師（４２）の姿があった。 恭也がおかしいと思い始めたのは、話を始めて大体一時間程経った頃のこと。 それまで話していた内容の「資料」としての写真類を、矢沢氏が奥の資料棚から出してきたのだ。 最初は、なるほど確かに「資料」としての意味合いが強く、様々な数値やメモが書かれていた。 資料はかなりの数に及び、それだけ矢沢氏が真剣にフィリスに接していた事がひしひしと伝わってくる。 恭也も最初は、矢沢氏の情熱に感心し、資料を一つ一つ丁寧に追っていったのだが……。 何故か途中から資料的な意味合いの写真はなりを潜め、代わりに「ポートレート」的なものが増え始めた。 考察やメモは少なくなり、代わりに撮った日時と場所などが書かれ始め。 いつしか資料は、ただのアルバムに変わっていたのである。 そして、それにはもれなく矢沢氏の「趣味」が現れていた。 恭也にとっては、これがまた非常に理解に苦しむものばかりであった。 確かに、フィリスの精神が退行を起こしている為、言動や仕草は子供っぽくなっている。 （だからといって、あれは……どうなんだろう） 恭也は見せられた写真を思い返す。 和服（千歳飴装備）。 園児服（黄色の帽子とチューリップ型名札装備）。 体操服（紺ブルマ仕様）。 スクール水着（濃紺、旧タイプ）。 後半に行くにしたがって、服の選択がマニアックになってきているのは気のせいなのだろうか。 そんな写真を次々繰り出す矢沢氏に引きずられ、気付けば話が始まってから３時間近くが経過していた。 （フィリス先生とフィアッセは、退屈していないだろうか） そう考えつつも、目の前に次々と出されるフィリスの写真には興味がある。 自分の知らないフィリスの姿。 それを見る事は、恭也にとっては抗いがたい誘惑でもあった。 「いやー僕はね、娘のこういう姿を見るのが夢だったんだよ」 写真がびっしり入ったアルバムの一箇所を示しつつ、ご機嫌な矢沢氏。 そこにあるのは研究者としての姿ではなく、ただの子煩悩な父親であった。 恭也は目を落とし、矢沢氏の示す写真を見る。 ……そこには、聖祥付属の制服を着てはにかむフィリスの姿があった。 ご丁寧に、指定の鞄や靴などの必要な物は全部揃えられている。 隣には何故かパリっと決めたスーツ姿の矢沢氏の姿。 さながら気分は入学式、といったところか。 服自体は問題ない。 なのはの制服で見慣れてはいる……のだが。 （これもそうだが……フィリス先生のサイズに合う服を、どこから？） 何しろ身長その他は今のフィリスと大差が無いのである。 指定の制服も、普通のものであれば一番大きくても着られるかは怪しいところだ。 「その服はね、指定の業者に頼んで作ってもらったんだよ」 恭也の疑問を読み取ったのか、嬉しそうに説明する矢沢氏。 「そうだ、恭也君だったらこの服を持っていてもいいな。 後で君の家に」 「送らなくていいですから」 ほとんど反射的に答えていた。 先が読めた、と言うのもあるのだが。 （……それ以前に、俺にこの服をどうしろと） 脳内で「使用法」の見当がつかない恭也には、それも不思議ではあった。 御神の剣士、高町恭也。 マニアックな趣味には興味も理解も無い男である。 「いやいや、僕との間でそういう遠慮はなしだぞ、息子よ」 「は？ あの……矢沢先生？」 ちちちっ、と揃えた人差し指と中指を左右に振られた。 しかも口笛付きで。 ノリはほとんど早●健のそれである。 「君がフィリスといい仲だという情報は得ているんだ。 ……恭也君。君もそろそろ僕の事を「義父さん」と呼んでもいいのでは――な゛！」 絶好調の矢沢氏を止めたのは、少し前から部屋にいた、一人の看護師だった。 ノリノリだった矢沢氏は気付いていないようだったが。 （あれは……少し痛いのでは） 恭也はそう思った。固そうなプラスチック製のクリップバインダー、しかも角でツッコミである。 力加減によっては、それこそ悶絶ものだろう。 「まったく……いい加減にしてください、先生」 「い、稲村君……君ね」 「恭也君が困ってるじゃないですか。 お話はもう終わったんですよね？」 「いや、まだ秘蔵の写真とＶＴＲが」 「終 わ っ た ん で す よ ね ？」 「……ああ、終わった」 「じゃあ、フィリス先生たちを呼んできますから」 そう言って部屋を出て行く稲村看護師。 ……と、ドアを閉める前に一度だけ振り返り。 「５分もかかりませんから、いない間に続きを……とかは思わない方がいいですよ？」 そう言い残して、にっこり笑顔でドアを閉めた。 「むう……稲村君は、僕に恨みでもあるのかなあ。 嫌われるような事はしていないと思うのだが」 「そういう問題でも、無いと思いますが」 「まあいい。 とにかく時間が無いので、これを君に渡しておこう」 そう言うと、矢沢氏は一冊のミニアルバムを紙袋に入れて恭也に渡した。 「……これは？」 恭也の問いに、矢沢氏は声を潜めるように告げる。 「……極秘扱いの資料だよ。 決して他の人に悟られないように、ね」 「……」 矢沢氏の顔は、真剣そのものだった。 先程までの表情は、微塵も残っていない。 「……解りました」 恭也は頷き、その紙袋を持ってきていた鞄の中に仕舞った。
本編に続く……？ お詫び 矢沢先生が、かなり面白い人になってしまいました。 「というか……バカ親ですね、アレは」 あと、下の名前「義之」は捏造です。 近所に住む幼馴染が毎朝「義之ちゃ〜ん」と呼んで起こしてくれた過去があったかは謎です。 「いいんですか、そういうネタは」 いいんじゃないのか？ 最近情報集めてないので、もしもオフィシャルで名前が出てたなら差し替えます。 というか、いつまでも先生だ医師だと書くのが面倒なんで下の名前考えたんだが、 結局は苗字しか書かれない悲劇ってどうよ。 「知りません」 「しかし……結局だらだらと喋って終わりましたね」 ほんとはこれの前の真面目なお話もあったんだけどな。 冒頭でちょこっと説明された部分だが。 そっちはどうしても話が暗くなる＆説明過多なので、この際オミットにした。 「そういう裏設定を普通にカットするってのはどうなんですかね」 いいんだよ、基本はギャグなんだから。 「最後のアイテムってなんですか」 一応後の話で分岐を用意してるので。 それによってまぁ、一部イベントが変わるかも。 入手した人は、それを心に留めておくといいかも知れません。 「大した期待はしない方がよさげですけどね」 |