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序 猫と梯子と白と縞？ （作：秋彦） 必須環境：とらハ３、美由希・フィアッセ・レンシナリオクリア 推奨環境：とらハ３＆リリカルおもちゃ箱オールクリア ジャンル：俺フィリス壊れ系ＳＳ ＷＡＲＮＩＮＧ！ これから始まるＳＳは、作者の脳内で構成された、きわめて偏ったとらハ異次元です。 心臓の弱い方は、充分お気をつけください。 尚、いろいろフォントが増えてる人は、少し楽しいかもしれません。 とらハＩＦＢＯＸ「もしもフィリス先生が幼児化したら」 序 猫と梯子と白と縞？ 暑さも和らぎ、そろそろ涼しくなってくる９月の終わり。 その日のフィリス・矢沢は、ご機嫌レベルがゲージを振り切るほどだった。 「〜〜〜♪」 鼻歌など歌いながら、小飛（病院近辺をねぐらにしている野良猫）に引っ掻かれた傷の手当てなどをしている。 腕やら掌やら、結構手酷く引っかかれているのだが、それに対する落ち込みもない。 普段通りのフィリスであれば、猫好きにして猫に嫌われるという難儀な性質の我が身を嘆きながらの手当てであるのに、だ。 消毒薬がしみる事や、脱脂綿を当てるたびに傷口が痛む事すら、彼女の上機嫌を崩すには至らないらしい。 むしろ痛みに声が出ても、それを照れて笑うような仕草さえあった。 奇妙な上機嫌は数日前から続いており、今朝に至って、遂にそれがピークを迎えた趣があった。 看護師・医師だけに留まらず、入院患者や、果ては外来の患者にまでその異変は知れ渡っている有様である。 「院内が明るくなった気がする」 ホスピス病棟５０６号室：高根シゲヲさん（７９） 「あの一角だけ何か空気の色が違う」 内科勤務：山崎真澄さん（２４） 「新種の病気ですか？」 一般病棟３０７号室：村山朱美さん（３８） 「今日のフィリスせんせーは白だった」 外来患者：小阪直義君（１１） ・・・・・・・ 「先生！直義君がタンコブだらけで！」 「なんか頭の形が変わって見えるくらいのコブの数だな……」 そんな訳で、フィリスの上機嫌の真意については、内外で諸説が飛び交っていた。 休憩室でお茶を飲んでいる看護師達の話題も、やはりこの仮説に終始している。 さして波風の無い生活を送る彼女達にとって、ここ数日の異変は格好のネタらしい。 「……それで結局、フィリス先生に何があったの？ あの機嫌の良さはちょっと異常だと思うわよ？」 「そんなの私が知りたいわよ。今日は朝からずっとあの調子だもん」 「猫に引っかかれてもニコニコしてるなんて、絶対に変よ」 「矢沢先生が何か大きな成功をした、とかじゃないわよねぇ」 「草むらで１億円入った鞄でも見つけたのかしら」 「……あんた、いったいトシいくつよ」 そんな看護師たちの疑問詞だらけの会話は、横合いからの一言で断ち切られた。 「簡単だよ。 今日は、恭也が検査に来る日だもん」 「え？」 突然の発言に反応した看護師達の視線の先。 何故か湯飲みに注がれたティーパックの紅茶を、緑茶のように啜る一人の外人（若干偏見気味の表現）。 看護師たちが休憩や仮眠を取るための部屋である休憩室（部外者立ち入りは基本的に禁止）に居てはいけない存在。 この病院で継続的に検査と治療を受けている「患者」、フィアッセ・クリステラがさも当然のように座っている。 もっとも、これはいつもの光景だったりするので、今更看護師達はフィアッセの存在に驚いたりはしない。 「フィアッセさん、それって……？」 「だから、今日は久しぶりに恭也の検査の日なの」 「恭也君って……確か、一年位前からフィリス先生が担当してる、彼ですか？」 「うん。 私の可愛い義弟（おとうと）♪」 フィアッセの言う恭也とはもちろん、高町家の長男で、唯一の男手でもある高町恭也の事である。 子供の頃から何度も整体や外傷の治療に訪れているので、いわばお得意様なのだ。 古流剣術の継承者という肩書きもプラスして、この病院では割と知られた存在だったりもする。 「ここ一か月半くらい、恭也が山ごもりしてたの。 美由希がようやく「皆伝」になったから、今回は恭也一人の修行だったんだけど…… 『余計な思考は入れないに限る』とか言って、携帯置いてっちゃったの。 おかげで会う事どころか、話も一切出来なかったから、余計に嬉しいみたい。 カレンダーが今月に変わる前に、部屋のカレンダーに赤丸つけてたもの」 フィアッセは天気の話でもするような何気ない口調で、割と秘密っぽかった事実を言い切った。 あまつさえ、お茶請けの一口饅頭（看護師の一人が自費で購入したもの）の包装紙を剥きながら、である。 その口の軽さと秘密意識の無さは、さながら井戸端会議で他所の奥さんの不倫を暴露するおばちゃんのそれに酷似していた。 「じゃ、じゃあ、彼とフィリス先生って……？」 フィアッセは「こくん」と頷き、 「直接聞いた訳じゃないけど、付き合ってるみたい」 「……」 微妙な沈黙があった。しかし同時に、奇妙な納得もあった。 ここ数日で何度も見たフィリスの仕草。 壁掛けの大きな時計（カレンダー付き・年代もの）にちらりと視線をやっては、くすくすと笑う様子が脳裏に浮かぶ。 「そっか……フィリス先生にも、いい人いたんだ」 「一ヶ月半ぶりかぁ……そりゃ、私でも浮かれちゃうなぁ」 「あんたには浮かれるべき相手もいないでしょうが」 「でもいいなぁ、幸せそうで」 親友が裏事情を茶飲み話の種に暴露している頃、ひたすら上機嫌なフィリスは窓際で正面玄関を見下ろしていた。 （……あと１時間くらいしたら） 時計を見て、また笑みが漏れる。 いつも時間に正確な彼は、きっと１０分前くらいには来るだろう。 そしてきっと、玄関前で時間ぴったりになるように調整をするのだ。 それを待ち構えるように窓際に張り付きながら、フィリスは久しぶりに会う恭也の事を考える。 （修行、大丈夫だったかな……また、傷とか増えてるのかな……膝、痛くしてなければいいけど……） そうして、心配ばかりしている自分に気付き、苦笑。 （私、こんなに心配性だったかな？） 
もちろん、彼女自身気付いた上での自問だ。 心配の度合いは、相手とどの程度親しいかによって変化する。 つまり、現在彼女が心配している高町恭也と言う男は、彼女の中でも特に大きな位置を占めているということだ。 （今日は膝の検査をちょっと入念にやって、疲労部位のマッサージと……テーピングも必要かも。 恭也君、いつも膝の負担をぎりぎりまで無視して動くから……あ、それだと鎮痛剤も用意した方が……） いくら浮かれている状況であっても、頭の中で何度も医療予定を組み立てる様は、流石に医者である。 もっとも、 （恭也君に会ったら、まずお帰りなさいって言って、次に心配させた事に文句の一つも言わないと。 どんな顔して入ってくるかな。きっといつも通り、なんでもないような顔してるんだろうな…… 早く治療が済んだら、その分時間ができるかな……今日は他に患者さんの予定は無いし。 そうしたら、半日休暇を取ってどこかに遊びに行くのもいいかなぁ……） 割と違う部分にまで思考が飛び火しているのだが。 （あ、それならいっそ２・３日休暇を申請しても……そうすれば、泊りがけで旅行とかだって…… え、も、もしかして二人っきり、とか？ あ、そんな、だめ……露天風呂でなんて……） しかも、考えが進めば進むほどいい感じに妄想が暴走を始め、遂には割と映像でお見せできないレベルにまで到達している。 赤くなった頬を両手で覆ってくねくねと悶える姿は、普段の彼女であれば間違いなく見られない。 とんでもなくレアな光景だったりするのだが……残念ながら現在、診察室にはフィリス以外の姿はなかった。 「早く来ないかな……恭也君」 そう漏らしながらちらちらと正門に視線をやる姿は、少女のような初々しさも相まって、かなり可愛いのだが。 ……と、正門に向けた視界の隅……正門から少し離れた並木のうちの一本が、フィリスの目にとまった。 「……？」 物思いに耽る（あくまでフィリス的観点）のを一時中断し、じっと目を凝らしてみる。 割と背の高い木の天辺近くが、時折がさがさと揺れている。風による揺れ方ではないのは一目瞭然だ。 （……何か、いるのかな） その後も、１５秒程度に一度、がさがさと揺れが断続的に続いている。 「…………」 少し思案した後、フィリスは正体を確かめに行く事にした。 この後の診察予定は恭也だけ、その恭也の診察時間までにも余裕は充分にある。 正門まで行って帰ってくるだけなら問題ないだろう。 （鳥がいくつか巣を作ってるのは知ってるけど……でも、その場合でもあんな揺れ方はしないはずよね） 決断即行動とばかりに樹の場所をもう一度確認して、フィリスは足早に診察室を出た。 「えーっと……確か、この木だったと思うんだけど」 近くまで行くと、やはりがさがさと音がする。 「……」 見当をつけていた辺りを探すと、音のする場所はすぐに解った。 やはり、天辺近くの一本の枝が原因らしい。 暫く見ていると、がさがさと動くほかに、細い声が聞こえた。 「……猫？」 確かに猫の声だった。 枝の鳴る音にかき消されそうになりながら、それでもちゃんと聞こえてくる。 （まさか……降りられなくなった、とか） そうは思うが、声だけでは何とも言えない。 もう少し良く見える位置を、と歩き回る事数分。 フィリスの視界に、やっと枝揺れと声の大本が姿を見せた。 「小飛……」 そこにいたのは、フィリスの良く知る猫だった。 細い枝に伏せるようにしがみつき、なんとか体を支えているような感じだ。 時折足が滑り、慌てて体勢を立て直す度に枝がしなる。 少なくとも、小飛自身が望んでやっている風には見えない。 「大変……！」 慌てて周囲を見渡し、何か助けになるものを探す。 誰かいれば……とも思ったのだが、あいにくと周囲に人影はない。 と、正門の右手奥、林になっている一角に、畳まれた金属の梯子が置いてあるのが見えた。 傍に大鋏などが置いてあるところを見ると、どうやら業者のものらしい。 「そうだ、あれで……！」 フィリスは急いでその梯子へと駆け寄る。 アルミ製の梯子は然程重くもなく、フィリスの手でらくらく、とは行かないまでも持ちあげることが可能だった。 「ごめんなさい、すぐ返しますから……」 その場にいない梯子の主に一言詫び、フィリスは急いで先程の樹へと戻った。 「えっと……確かこの紐を引けば」 梯子の横についているナイロン製の紐を引くと、するすると梯子がその全長を伸ばしてゆく。 すぐに樹の中程までの長さになったそれを立て掛けて固定すると、 「よい……しょっ」 ゆっくり、慎重に梯子をのぼり始めた。 ちなみに現在のフィリスの格好は、いつも通りのスーツに白衣。 タイト気味のスカートが邪魔で、若干足元のバランスが悪い。 真下に人が居れば、さぞかし絶景が拝めた……筈なのだが、周囲にはフィリス以外誰も居ない。 まあもっとも、下に人が居てその絶景を目にしたら、その風景を堪能する暇もなく外来の小坂直義君と同じ運命を辿る事になるのであるが。 彼女の認識では、その光景を目にしてもいい人間は現在一人だけなのである。 「と……あと、ちょっと……」 梯子から樹に移り、ゆっくりと登ってゆく。 それにつれて、段々と小飛の状況が良くわかるようになってきた。 両足を突っ張って、ギリギリのところで耐えているような感じがますます危機感を煽る。 「まってて、今助けてあげるから……」 ゆっくりと手を伸ばす。 流石にこの状況では、小飛も暴れる余裕はないようだ。 そっと、刺激しないように小飛を抱きかかえる事に成功した。 安定した足場の枝まで戻り、ほっと一息をつく。 「もう……あんまり危ないことしちゃダメじゃない、小飛」 そのフィリスの一言が引鉄となったのか。 それまで大人しかった小飛が、突然暴れだした。 「あ、ちょ、いた、いたたた」 腕から逃れようと、必死でじたばたする。 先程治療したばかりの手に、また新しい傷が出来た。 「小飛、お願いだからおとなしく、いた、いたた」 なんとか小飛を押さえようとするフィリス。 ……そのために、腕に意識を集中しすぎたのか。 「！？」 突然、足が滑る感覚。 足元から一切の感触が消え、視界が急速に反転。 樹の肌から空の蒼、そして地面の緑とアスファルトの灰色と、吹き上がる水。 「っっっ！！！」 発動は、一瞬。 光 耳元で鳴る風 落下 灼熱感 引っ張られる いちめんの蒼 飛沫 冷たさ 水音 息苦しさ 腕の中の温度 遠くの声 ざわめき 闇 遮断 白黒 ノイズ そして静寂 高町恭也が病院に到着したのは、それからおよそ２０分後の事だった。 正門を抜けて、正面入口の前に差し掛かったとき、地面が濡れている事に気付いた。 見れば、正面入口の前にある大きな噴水を中心にして、何故か巨大な水の染みが残っている。 何かが勢いよく噴水に飛び込んだような、そんな感じだ。 （……まさか。残暑があるといっても、もうすぐ１０月だ） 加えて今日は、少し肌寒い。 こんな日に噴水にダイブしたら、普通の人間なら間違いなく風邪を引く。 「子供が大きい石か何かを投げ込んだんだろう」 そう結論付けると、恭也はその場所を素通りして受付に向かった。 待ち時間は、さほど長くなかった。 「やあ、待たせたね」 そういいながら診察室に顔を見せたのは、壮年の男性だった。 眼鏡の奥の瞳は細められ、にこやかな笑みを浮かべている。 「矢沢先生……？」 恭也はその男性を知っていた。 フィリスの父であり、フィアッセの担当医師でもある男だ。 彼はカルテを手に椅子に腰掛けると、やや眉尻を下げて恭也に謝った。 「すまないね。 本当ならフィリスが君の診察をするはずだったんだが」 その言葉が、何か気になった。 「あの、フィリス先生は」 恭也の問いに、矢沢医師は簡潔に答えた。 「……今は、眠っているんだ」 「眠っている？」 「そう。 ……君は、フィアッセがＥＳＰの後遺症で昏睡した事を覚えているかね？」 「……覚えています」 答えながら、恭也はその時の事を思い出していた。 ……そう、あれはフィリスと出会って間もなくの頃。 高町家の屋根に登った猫を助けようとした、レンと晶。 二人が猫と一緒に足を滑らせたとき、それまで隠していた「ちから」を使って、フィアッセが皆を助けた事があった。 その時は、一時的なオーバーロードによって、フィアッセは数時間の間昏睡し、この病院に運ばれたのだ。 「今日……つい先程だがね。 フィリスが樹の上に登った猫を助けようとしたんだ」 似ている。状況は、あの時にそっくりだった。 「その際に足を滑らせてね……」 「！？」 恭也が腰を浮かせかける。瞬時に体中に緊張が走る。 「落ち着きたまえ。 ……結果的には、フィリスも猫も無事だよ。かすり傷一つない」 緊張した恭也を宥めるように、矢沢医師は結果を先に述べた。 「フィリスが咄嗟に発揮したＥＳＰのおかげでね。 フィリス達は、正門前の噴水に落下したんだ」 「あの大きな水溜りは、それでですか」 「そうだ。 ……その時の力の反動で、フィリスは今眠っているんだよ」 「異常は……」 「解らない。 が、ある程度の後遺症は覚悟しないといけないだろうね」 後遺症。 その単語が、恭也の中に暗い澱を落とす。 かつて、学友を助けたフィアッセは、その時の後遺症でしばらく声が出なかった時期があったと聞いている。 ……それはつまり、程度や種類の差こそあれ、そういった「身体的な障害」がフィリスの身にも起こるという事実に繋がる。 考える程に、恭也の中にある焦りが大きくなっていく。 「先生。 フィリス先生の後遺症とは、何です？」 「うむ……あの子の場合はな」 軽いノックの音に話が止まる。 ドアが開くと、一人の看護師が姿を見せた。 「矢沢先生……あの、フィリス先生が、目を覚まされました」 「君も、目で見たほうが解りやすいだろう」 そう言って、矢沢医師はフィリスを寝かせてある病室に、恭也を伴って向かった。 病室に向かいながら、恭也の中にはぐるぐるととりとめのない思考が渦巻いていた。 次から次に、考えたくないような想像ばかりが浮かぶ。 「ここだよ」 矢沢医師の声に、我に帰った。 一枚のドア。 緊急の処置のため、空いている個人病室を使用したらしい。 二回ノック。 「はーい」 中から返事がった。 「……フィアッセ？」 「ああ、今日は彼女も検査でね。フィリスの世話を買って出てくれた」 頷いて、彼はドアに声をかけた。 「私だが、入っていいかな？ 恭也君を連れてきたんだが」 「恭也が来たんですか？ よかった、これで……どうぞ、入ってください」 軽く背中を押され、恭也がドアの前に立つ。 先程のフィアッセの言葉が、悪い予感に更に拍車をかけた。 「……失礼、します」 意を決して、ドアノブを回す。 ゆっくりと開くドア。 開けてゆく視線の先には、半分開かれた窓、誰もいないベッド、その傍の椅子に座るフィアッセ…… （誰も、いない？） おかしい、と思った次の瞬間。 「わっ！！」 「！！！」 いきなり飛びついてきた相手に驚き、数歩たたらを踏む。 咄嗟に反撃に出なかったのは、相手に殺気が皆無だったせいだ。 謎の襲撃者は恭也に引っ付いたまま、額を擦り付けるようにぐりぐりと頭を動かした。 それにあわせて、長いシルバーブロンドが揺れる。 髪はしっとりと濡れており、それが恭也の腕にぱさぱさと当たった。 「もう……フィリス、恭也を驚かしちゃダメじゃない」 「えへへ〜」 （……………………フィリ、ス？） 思考停止状態に陥った恭也は、何かに操られるように、ゆっくりと下に視線を向けた。 しっとりと濡れて光る、見事なシルバーブロンド。 だぶだぶのＴシャツから出ている腕と、脚。 ちなみに裸足。 視線に気付いたのか、「フィリス」が顔を上げた。 恭也と目が合う。 間違いなく、恭也の知っているフィリスの顔だ。 だが、何か。 違和感が にぱっ（笑顔の効果音） 「おかえりなさい、きょうや君♪」 「…………………………は？」 満面の……というか、邪気の一切ない、朗らかな笑顔。 少し舌足らずな声。 愛くるしい仕草で恭也を迎える挨拶をしたフィリスは、自分の記憶にある姿とは似ても似つかない。 いや、確かに外見や声は完全にフィリスなのだ。 だがしかし、それ以外が致命的なまでに違っている。 黙ったままの恭也が面白くなかったのか、フィリスは「ぷうっ」と頬を膨らませる。 完全に子供の仕草である。 「もう、だめだよきょうや君。 『おかえりなさい』っていわれたら、『ただいま』っていわなきゃ」 「あ、え、ああ…………ただいま？」 勢いに押されて、ほぼ反射的に挨拶を返す恭也。 何故か疑問系だった。 「うん♪」 ちゃんと挨拶をした事が嬉しかったのだろう。 フィリスの膨れ面は途端に笑顔になった。 いつもの控えめな、落ち着いた笑みではない。 文字通り、顔全体の笑顔……「お日様のような」という形容詞がぴったり来るような笑い方。 にこにこにこにこ。 ひたすら笑顔のフィリスと、硬直しっぱなしの恭也。 そこに声をかけたのは、フィアッセだった。 「ほらフィリス、恭也とお話するんだったら、ちゃんとした服に着替えた方がいいよ？」 「はーい♪」 ぱっと恭也から離れ、フィアッセの許にぺたぺたぺた、と駆け寄るフィリス。 と、 びたんっ！ 何もないところで躓き、見事に床にダイブ。 見るからに痛そうだ。 しかも、転んだ拍子にＴシャツが思いっきりめくれ上がっている。 素肌の背中が半ばまで見えている。 更には、腰周りを包む控えめな面積の布地までもがばっちりである。 どうやら、スカートやスパッツなどを穿いていた訳ではないらしい。 水色と白のストライプが目に眩しい、一部マニア垂涎の光景とも言えよう。 だがしかし、健常な青年男子であれば確かに絶景であった筈のその光景も、今の恭也には （……………………縞だ） というレベルの感想しか浮かんでこない。 先程からのショックで思考能力が極限まで下がっているらしく、目の前の光景を堪能する余裕など皆無である。 ……もっとも、普段の恭也でも「じっくり鑑賞」と言う選択肢はないのだろうが。 「あらあら……フィリス、大丈夫？」 フィアッセの声に、フィリスがぴくりと動いた。 そして、 「う……ぐしっ……」 あ、と思ったときには遅かった。 「ふぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜ん！！」 大音量の泣き声が、周囲を震わせた。 「あらら……泣いちゃダメよフィリス、よしよし、痛くない痛くない」 一生懸命フィリスをあやすフィアッセ。 ひたすら泣きじゃくるフィリス。 苦笑いの矢沢医師と看護師。 「一体……何が…………？」 呆然としたままの恭也の呟きは、フィリスの泣き声に掻き消されて、誰にも届かなかった。 （つづく） なかがき・１ という訳ではじまってしまいました、「俺フィリス」ＳＳ。 純粋にフィリス先生が好きな皆さん、ごめんなさい（土下寝） 「毎度のことながら、何も考えてませんよね」 失礼な。これはちゃんと元の文章があるんだぞ？ ……オリジナルは恭也が矢沢先生と話してたところからだが。 「つまり、その前の部分は全部新規追加分ですか？」 そ。 フィアッセが近所のオバちゃんなのも、フィリスが妄想バーニングなのも、全部追加。 あと、こけたフィリスの下着が見えてる（しかも縞）のは、昨今のニーズに迎合した為。 「何がやりたかったんですか、一体……」 今回のＳＳ、ＢＢＳでも書いていた通りに「フィリス先生の幼児化」が基本です。 「つまり、幼フィリスＳＳですね」 ちなみに身体的には元の年齢のままだから、恭也大パンチ。 「都合のいい妄想を爆発させるには、ベタ過ぎる展開ですね」 ほっとけや。 「さーて、次回のお話は〜？」 サ●エさん風味かよ。 「退行……ですか？」 明かされる、フィリスの驚くべき「能力使用の障害」！！ 「じゃあ、きょうやお兄ちゃん！」 無垢なフィリスの攻勢に、たじたじの恭也！ 「大丈夫だよ、うん。 私が保証する♪」 フィアッセの暗躍、その真意とは！？ そして、遂に恭也は人生最大の危機に直面する！ 「きょうは……えっちなこと、してくれないの？」 次回、とらハＩＦＢＯＸ「もしフィリス先生が幼児化したら」第２話 「偽妹と葛藤と暗躍とよいこの性教育」 克目して待て！ ……うむ、完全に追い込んだな、自分を。 「いいんですか……こんな展開で……」 大丈夫、このＳＳは良いこの皆さんにも安心して読んでいただける作品だから。 「というか、とらハをプレイしてるのは全員大きいお兄ちゃんたちですけどね…… くれぐれも、掲載できないレベルの話にはしないでくださいね？」 それは俺の脳内でだけ、と言うことで（何 ▼next 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